第8号 (第3回定期総会特集号)

       ========== 目 次 =========

    ● 開会のことば −−−職務と責任−−−   (弁護士  佐久間哲雄 )

    ● 活動報告 (弁護士  山田 泰)

    ● 出版を終えて 「刑事確定記録」出版の意義とその影響 (弁護士 鈴木 健 )

    ● 情報公開請求方法について   (弁護士 山田 泰)

    ● 閉会のことば   (弁護士 藤田 温久)

    ● <編集後記>

     ========================


*

 ● 開会のことば −−−職務と責任−−−
(弁護士  佐久間哲雄)

 防衛庁の情報公開室の担当官が、情報公開請求者について職業、所属組織などを記入した
リストを作っていたこと、そのリストが、情報公開室のLANを通して他部署の者からもア
クセスが可能な状態におかれていたことがスクープされ、大騒ぎとなった。

 防衛庁は、緊急事態が発生したとき、治安出勤の任に当たる自衛隊を所轄する組織である。
治安出勤時における要注意人物の監視、拘束等の資料に、右のリストからの個人情報が使用
されないとは限らない。防衛庁、政府は、担当官個人の発想によるものと頑張り通した。
情報公開室のLANによって、公開請求者のリストを目にした人たちが、何の疑問も持たな
かったのは何故か。疑問を持った人がいたとしても、リスト上の思想・信条に及ぶ個所の削
除などを進言せず放置したのは、何故だろうか。

 先日、神奈川県警察本部刑事部捜査一課の幹部捜査官は、取調べでは「お前」と言い、或
いは名前の呼び捨てで被疑者と対峙すると証言し、大声を出すことがあるのもやむを得ない
と胸を張って供述した。絞首台から生還した冤罪事件の被害者の多くが、捜査過程において
虚偽の自白をしている事実から、証人は捜査官として何を学んでいるかと質問してみたが、
要領を得た証言はなかった。

 思うに、防衛庁に勤務する公務員として、防衛庁・自衛隊に対し敵意を有する者、防衛・
治安活動に障害となるかもしれない者を予め掌握しておくことは職務に必要な行動だと考え
ているのではないか。捜査官は犯罪者の摘発、犯罪者との対峙は戦いだ、きれい事では済ま
ないと考えているのではないか。組織全体がこのような考えになったとき,自分らのやって
いることが違法であることなどポッカリと忘れ去られてしまう。

 上記の2例は,日本人の弱点の一つを典型的に示したものと思う。

*
● 活動報告 (弁護士  山田 泰)


1 はじめに
 市民ができること、市民だからこそできることを目指して誕生した「警察見張番」は丸
2年を経過した。
 昨年9月5日には改正警察法に基づき公安委員会が全国に先駆けて指示した監察結果が
発表された。また10月からは公安委員会・県警も情報公開実施機関となり、「県警見張
番」として早速公開請求を行った。
 しかしこの間も次々と県警「不祥事」が発生し、県警組織に根深い問題点があることが
改めて浮き彫りとなっている。
 他方発足以来力を入れていた渡邊元本部長等の犯人隠避・証拠隠滅事件の記録閲覧作業
は、本年5月、米本和広氏執筆による「神奈川県警の闇い17日間」として、他の警察物
とともに宝島社から別冊宝島『裸の刑事』が出版された。
 発足期を終えた現在、情報公開制度を活用した市民的監視という設立目的に沿って次の
ステップに歩み出すことが求められる。

2 活動報告
(1)渡邊元本部長等の犯人隠避・証拠隠滅事件ドキュメントの出版
 数ある神奈川県警「不祥事」の中でも、トップが率先して組織的隠蔽を行ったこの事件
こそ、警察組織の問題点を端的に示すものであるとの認識から、昨年1月以降その閲覧作
業に力を注いできた。この作業が完成した後、出版社と交渉にあたる一方、鈴木健弁護士
が読みやすい解説原稿を執筆した。
 曲折があったものの、早期にこの事件を広く世に問うことが必要との判断から、とりあ
えず閲覧記録に基づき、米本氏がドキュメンタリー風なものに執筆して、宝島社から出版
するに至った。
 しかし私たちとしては、県警中枢幹部の調書などこの記録の資料的価値をも考え、引き
続き見張番自らが編集した出版を、何とか実現したいと考えている。
 なお『裸の刑事』の一部に誤りがあることが出版後判明したため、訂正を申し入れた。
かながわ市民オンブズマンなどにご迷惑をおかけする結果となり、ここにあらためてお詫
び申し上げておく。
(2)情報公開請求
 昨年10月1日(公開施行初日)、見張番として公開請求を行った。公開を求めたもの
は:

@公安委員会会議録(多量に及ぶため時期を限定し、また添付資料を除いた)
A経理関係文書(平成12年度の公安委員長・県警本部長の交際費関係、平成12年度予
算にかかる県警本部の支出執行及び全所属の支出決算簿、平成12年度6月中の支出負担
にかかる県警本部警備費の報償費、諸謝金、捜査費の支出証拠書類)
B事件関係(鶴見警察署長業務上過失傷害事件等及び元小田原署員の青少年保護育成条例
違反事件の証拠隠滅等に関する本部長に対する報告文書)
である。
 その結果は例会等で報告のとおりだが、公安委員会会議録を除き、総じて公開度は低い
(公安委員会会議録も発言した委員の氏名、懲戒処分を受けた警察官の所属や氏名、不祥
事案の所属、警備についた人数・期間等はスミ塗り状態である)。
 公開請求を重ねて行くとともに、いくつかの非公開部分については公開訴訟を提起して
いくことが必要であろう。 
(3)その他の主要な活動
@会員を対象に定例会を2回(昨年11月、今年3月)開催した。
 第1回は、落合博実朝日新聞編集委員の警察・検察庁における不正経理問題、第2回は、
宇都宮の小野瀬芳男弁護士による「上三川事件から見えてくるもの」をテーマとして行わ
れた。
 いずれも興味深いものであったが、特に第2回は宣伝の仕方の問題もあって小人数しか
参加できなかったのは残念だった。
A会報を年3回(昨年9月、今年1月、5月)発行し、県議会・横浜市議会各会派や記者
クラブに配布した。
 また情報公開実施に先立ち、昨年9月26日元本部長事件記録閲覧状況とともに警察に
かかわる情報公開条例の問題点を指摘した声明を出した。
B担当者が退会したことからホームページが停止状態となり、後任探しをしていたが、見
通しがついたことから早めの復活を目指したい(なお掲示板は当面設けない)。
C概ね毎月1回役員会を開催して、この討議に基づき会の運営を行った。
 なお、個別被害事例の訴えの対応については、行政の無料法律相談を勧める(希望があ
れば会員弁護士の有料法律相談もある)ことを基本とすることを役員会で確認した。


          ********************    活動方針   *******************


1 公安委員会及び県警に対し必要な情報公開請求を行う。
  @公安委員会会議録・添付資料の定点観測
  A「不祥事」案等の報告書等
  Bその他
  なお、非公開の場合情報公開訴訟をも検討する。
2 渡邊元本部長等事件記録の出版に引き続き努める。
3 神奈川県警の市民的監視のため必要な活動を行う。
4 例会開催や会報発行を続けるとともにシンポジウムなども行っていく。
5 会員を普及する。



*
● 出版を終えて 「刑事確定記録」出版の意義とその影響
  (弁護士 鈴木 健 )


 前回の「見張番だより 第7号」において、警察見張番立ち上げに当たってのメインイ
ベントとして掲げた「神奈川県警本部長などの犯人隠避・証拠隠滅刑事事件確定記録」が、
4月25日に発売された別冊宝島Real033『裸の刑事』PART3「隠蔽工作−神奈川県警不祥事
を再検証する」という形で日の目を見たことをお伝えしました。私は、先日7月4日に行
われた第3回総会においてもそのことをご報告したのですが、会場に来られなかった方の
ために、「見張り番だより 第7号」には書いていないが総会会場では触れたことにつき
若干この場で付け加えさせていただきます。

 『裸の刑事』は、横浜関内の有隣堂書店本店では、出版と同時に他の「別冊宝島」シリ
ーズと共に2箇所において平積みされました。とはいえ、前回の「たより」でもお伝えし
たとおり、今や社会問題を時間をかけて原因究明し提言するという類の書物はあまり売れ
筋にはなりにくいようで、『裸の刑事』も、爆発的に売れているわけではないようです
(報道番組『ザ・スクープ』が打ち切りになったのも、手間暇をかけて製作しても視聴率
がとれずスポンサーがつきにくくなったことが原因とのこと。残念)。

 しかし、一般市民に対する売れ行きとは別に、警察組織内部に対する威嚇力は、一定程
度上がっていると思われます。我々役員会では、事件に関わった人間のどこまで実名を出
すかにつき検討し、起訴猶予になった者も含めて書類送検された者は実名を出すことにし
ました。すなわち、起訴された5人は既に新聞報道などで広く名が知られることになった
でしょうが、起訴猶予になった者は、当時さほど報道の対象になっていなかったと想像さ
れるところ、ここで改めて市民の批判にさらされることになったのです。が、別冊宝島の
編集長によると、今のところ起訴された者からも起訴猶予になった者からも、実名報道の
形で出版されたことについての抗議は来ていないとのことです(起訴猶予になった者の中
には辞職していない者もいるのに、です)。

 また、これは私の知り合いの弁護士が言っていたことですが、担当している刑事事件の
被疑者の話によると、警察署の留置場の中では『裸の刑事』がよく読まれていて話題にな
っているとのことでした。被疑者が適正な捜査とは何かを知ることにより、警察官は、違
法・不当な捜査や取調をしにくくなります。

 こういった威嚇効果こそが、情報収集・公開活動を通じて組織のありかたを正していく
という、我々警察見張番や全国のオンブズマン活動団体の究極の狙いとするところなので
す。組織も、自分たちのやっていることが市民にガラス張りにされれば、不正なことはで
きにくくなります。今回の出版を一つの成果として、今後も情報公開開訴訟活動などを通
じて、継続的に神奈川県警を「威嚇」していきたいと考えています。


*
● 情報公開請求方法について   (弁護士 山田 泰)


 「警察見張番」は、情報公開制度を活用して、神奈川県公安委員会や県警を市民的に監
視していこうという目的で活動しています。 ひとつ、自分でも公開請求してみようとい
う会員の方のために、その手続きの概要を説明します。

《神奈川県公安委員会や県警に対する請求》
 平成13年10月1日から、公安委員会や県警も公開対象となりました。
平成12年4月1日以降の文書については他の行政情報と同じ扱いです(もっとも警察等に
特有の非公開事由として「公開することにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、控訴の維持、
刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認め
ることにつき相当の理由がある情報」が定められていて、これをどう限定させていくこと
ができるのかが今後の課題)。 しかし、これより前のものについては、次のような例外
的なものしか開示が認められないのです。

@保存期間が10年以上のもの(たとえば条例、規則等の解釈及び運用方針並びに事務事業
の実施要綱に関するもの、警務課の所掌する職員の人事異動及び人事考査に関するもので
重要なもの、契約に関するもので重要なもの等)
A公安委員会に報告された事項又は同委員会において審議し、若しくは意思決定した結果
が記録されている文書(たとえば公安委員会の報告資料等)
B県警本部長が職員に指揮命令又は示達した情報が記録されている文書で、現に効力を有
しているもの(たとえば県警訓令や例規通達等)
C許可、認可、免許、承認等の行政処分に関する文書で、その行政処分の効力が消滅する
までの間保管し、又はその文書に記録された情報が最新のものとなるよう常時整理して使
用しているもの(たとえば行政処分の申請書、届出書、決済文書、台帳類)
県庁の第2新庁舎1階に窓口があり、請求に来たというと県警の担当者が出てきて、請求
する文書が何かを特定していくことになります(郵送でもできます)。用紙は窓口(郵送
してもらうこともできます)にあり、申請手数料はかかりません。

 その後決定結果の電話連絡(この場合開示日やコピーの要否等を相談する)や決定通知
書が送られてくることになります。閲覧だけなら無料、コピーは1枚10円(現金でその場
で支払う)です。

《国家公安委員会や警察庁に対する請求》
 情報公開法が平成13年4月1日から施行され、「不祥事」やその他の問題については、
報告が警察庁や国家公安委員会に上げられることが考えられ、時にはこちらの情報を求め
てみることもあります。

 窓口は東京霞が関の中央合同庁舎2号館ですが、流れは神奈川県の場合と同様です。
 ただ開示請求手数料が1件につき300円かかり(収入印紙を貼用します)ます。また閲
覧手数料(100枚までごとに100円)、コピー代(1枚20円)もかかるのですが、これらの
支払いのとき、開示請求手数料が控除されますので、結果としてコピーが15枚以内であ
れば追加支払いが不要ということになります。

*
● 閉会のことば   (弁護士 藤田 温久)


 先日、私は、和牛商法 (利息・利益を付して和牛売却後に返還するとして和牛を購入・
肥育する資金を預託させる悪徳商法)の被害者Hから依頼を受け、業者Tに賠償請求を行
いました。ところが、業者Tは破産申立をして債務を免れようとしました。悪質な計画倒
産と推測されます。

 本件では、他の和牛商法事件と異なり、業者Tが購入したと称する牛M号が特定されて
いたため、インターネットによりM号の肥育業者の連絡先を調べ、肥育業者が業者Tを知
らないことをつきとめていましたので、業者Tを詐欺罪で警視庁に告訴しました。

 ところが、警視庁の担当官は、他に重大消費者被害事件を3件も抱えておりどうしても
捜査に着手できないとして告訴を取り下げて欲しいと言うばかりでした。私が、告訴受理
を拒否すると問題を大きくするしかないと申し向けても「上から言われた方が捜査できる
かもしれない」と言う有様でした。そこで、やむなく、東京地検に告訴し直したところ、
東京地検の担当官も「忙しくて捜査できない。警視庁へ告訴してくれ。」と言うので「た
らい回しにするのか。告訴権の否定だ」と抗議すると「必ず捜査するように一筆書きます」
と言うので、再度警視庁に告訴し直しました。すると、最初の警視庁の担当官から「結局、
私が捜査することになりました。」との電話があったのです。その後、急速に捜査は進み、
被害者Hは救済されました。

 しかし、悪徳商法の加害者・被害者を捜査してもらうのに、こんなに苦労しなければな
らないのはなぜでしょうか。警察は、こんな明白な詐欺容疑者に対する告訴さえ受理しな
いようにしているのに、「犯罪検挙率」が急速に低下しているのはなぜでしょうか。

 消費者被害など国民に密着した事件を担当する部門には予算と人員を回さず、相変わら
ず警備公安に偏重した警察の体制に改革のメスが入っていない結果ではないでしょうか。

 相変わらず、警察は「不祥事」と「犯罪」の汚濁にまみれ続けているにも拘わらず、国
民へ目を向けた改革に手をつけず、逆に警察の権限を拡大する各種法律の成立に血道を上
げています。

 私たち警察見張番の役割は、益々大きいと言わねばならないと思います。善意の警察官
に報いるためにも、今年度も、頑張りましょう。

*
● <編集後記>


 7月4日(木)、県民活動サポートセンターにて、「警察見張番」第3回定期総会が開
かれました。ウイークデイの夜ということもあって、参加者は少なめでしたが、内容は非
常に濃い 総会でした。「開会のことば」から「閉会のことば」に至るまで、単なるご挨
拶ではなく、ミニ講演の内容がありました。

 そこで、今回の「見張番だより」は、総会に参加できなかった方々に、総会の中身をお
知らせしたいと考えました。ただ、活動報告・活動方針だけでなく、それぞれのお話も掲
載することにいたしました。
 なお、活動報告・活動方針は、質問をいただいた後、承認されました。

 7月の総会が終了後すぐに、この「見張番だより」8号を発行する予定でしたが、有事
法制デモ、その他諸々の割り込みワークがありまして、かくも遅くなってしまいました。
深くお詫びいたします。
 今年度は、「見張番」の活動も第2ステップにはいりました。皆さまも、情報公開条例
を使って、警察と公安委員会に開示請求をしてください。また、その結果を事務局の方へ
ご連絡ください。その他、「見張番」としての活動に対してご提案がありましたら、ぜひ
お寄せください。
(生田) 

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