第9号の1

(2002年11月11日発行)
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        ========== 目 次 =========

    ●1)警察の理念と情報公開   (弁護士  佐久間哲雄)

    ●2)日弁連シンポに参加して   (弁護士  鈴木 健)

    ●3)神奈川県警の組織的隠蔽はなぜ起こったか日弁連人権擁護大会
       ーー基調報告としてーー  (横浜弁護士会  山田 泰)

    ●4)県警情報公開請求&ツアー −参加者のコエ・こえ・声−

    ●5) 編集後記

        ========================


*

 ● 警察の理念と情報公開   (弁護士  佐久間哲雄)

 日本道路公団を初めとする道路4公団の民営化を目指す作業が本年6月から進行して
いる。新日鉄の今井会長をトップとする委員会は,公開で審議を続けている。議事録も
要約ではなく,審議のやり取りを全文載せる方式である。当初,些細な資料の提出にも
応じない姿勢を示した公団側も,国民注視の中にあって抵抗しきれず,最近は大分素直
に資料を出しているようである。

 次々と驚くような事実が明らかにされている。4公団の負債40兆円に対してほぼ見
合う資産があるとされていたが,固定資産税の負担がどの程度になるか検討をつけるた
めに改めて評価させたところ,何と20兆円程度という数字が出た。
 以前から道路公団の調査・研究している猪瀬委員も,恐らくこの数字にはびっくりし
たのではないか。道路族の国会議員の先生方の意見も一本調子のものでなくなりつつあ
るようだし,道路建設計画の見直しに断固反対と云っていた多くの県知事の中から,
2車線を1車線に変更しようという声が,最近では大分上がっているそうだ。

 国民の批判もさることながら,新たに明らかにされた事実・数字を前にして,従前の
考えに変化を来たしているのではないかと思う。改めて情報公開の威力を感じるのは,
私だけではないだろう。

 神奈川県警を震撼させた覚せい剤事犯もみ消し事件の記録を調査したとき,関与した
本部長以下,県警上層部が「警察の威信」に金縛りになっていることを痛感し,憐れを
感じた。威信とは,広辞苑によれば,威光と信望をいう。警察,その構成員である警察
官に市民からの「信望」が寄せられ,市民の信望に支えられことは,不可欠であろう。
 「威光」の方はどうか。威光があったほうが警察の業務は一見効率的に進むように思
われるし,個々の警察官としても気分は良いかもしれない。考えるべきは,「威光」と
いう理念が現代社会における警察に相応しいかどうかだろう。行政情報は,できる限り
公開されたほうがよいとされるのが現代社会の潮流である。警察,警察官もこの流れに
抗うことはできない。
 そうとすれば,市民に情報公開をし,相互理解のうえに立った市民からの信頼のうえ
に立った警察の姿を模索すべきではないか。警察当局は,新しい理念への転換は終わっ
ているというかも知れない。そうならば,「警察の威信」に金縛りになっている実態は
ないのか。日本の警察そして神奈川県警の名誉回復は,警察の理念の再点検・その地道
な実現の努力にかかっていると考える。
 情報が公開されさえすれば,多くの市民は,協力を惜しまない。

*
● 日弁連シンポに参加して   (弁護士  鈴木 健)

 去る10月10日、福島県郡山市民文化センターにおいて、日弁連第45回人権擁護大会が
開催され、その3つの分科会の一つとして「だいじょうぶ?日本の警察−市民が求める
改革とは−」シンポジウムが行われた。

 日弁連(日本弁護士連合会)とは、日本で活動する弁護士が全員所属する団体であり、
人権擁護大会とは、年に一度日弁連の人権擁護活動を集約・点検して当面する重要な人
権課題を明らかにし、これまでの蓄積を生かしたより高度な人権擁護活動を目指すため、
全会員の英知を結集することを目的として、持ち回りで開催される大会である。今回は
たまたま警察問題が取り上げられたことで、警察見張番の今後の活動にも参考になると
思い、役員7人が参加した。
 シンポジウムの内容は以下のとおり。

  第1部 「警察不祥事の実態とその要因をさぐる」
     基調報告 「警察不祥事の実態と分析」
            平 哲也(新潟県弁護士会)
     基調報告 「神奈川県警の組織的隠蔽はなぜ起こったのか」
            山田 泰(神奈川県警見張番、横浜弁護士会)
     特別報告 「警察社会の実態と不祥事の原因」
            黒木昭雄(元警視庁警察官、ジャーナリスト)
  第2部 パネルディスカッション
     「情報公開と不整経理ーはじまった警察情報公開」
            パネリスト 庫山恒輔(仙台市民オンブズマン事務局長)
                  大内 顕(元警視庁職員、ジャーナリスト)
                  大沢理尋(新潟県弁護士会)
  第3部 パネルディスカッション
     「市民の生活の安全と警察の役割
       −警察をどのように民主的にコントロールできるか」
            パネリスト 渡名喜庸安(愛知学泉大学)
                  黒木昭雄(前出)
                  高井康行(第一東京弁護士会、元検察官)
                  新垣 勉(沖縄弁護士会)
     特別報告「警察は市民を守っているのか
       −桶川ストーカー殺人事件」狩野憲一(被害者の父)
     特別報告「弁護士である公安委員として
       −山口県公安委員の立場から」末永汎本(山口県弁護士会)

 第1部の山田弁護士の基調報告は、いうまでもなくわれわれ警察見張番がこれまでの
メインイベントとして取り組んできた、渡辺元県警本部長他による覚せい剤もみ消し事
件の刑事確定記録閲覧・まとめ作業の結果がベースとなっている。われわれの活動が、
日弁連の人権活動にも貢献することとなっていることは、大いに自負してよい。

 第2部のパネルディスカッションでは、元警視庁で経理業務に関わっていた大内さん
による暴露話が非常に印象的であった。すなわち、「警察組織において経理業務に携わ
る者は、裏金作り(捜査費や旅費の名目で支給された金を、実際には別の用途に使うの
に、捜査費用や交通費として使ったという体裁を装うため、領収書を偽造するなどの作
業)を日常業務としてやらされており、作られた裏金は、幹部のヤミ給与として配分さ
れるほか、広く末端の職員にも飲食代等として配分されている。最初は罪悪感を感じる
職員も次第に慣れていき、自分も恩恵に預かっているため内部告発がしづらく、しよう
としても徹底的な反撃が予想されるため怖くてできない(大坂高検の三井検事がいい例
ではないか)」とのこと。大内さんは、講談社より『警視庁裏ガネ担当』という著書を
出版されているので、興味のある方は、是非お求めあれ。

 情報公開法および都道府県の情報公開条令が整備される中で、公開情報の時期制限や
文書の保存期間などの点でまだまだ不備はあるものの、カラ出張が激減するなど将来に
向けての一定の威嚇効果はあり、(警察が内部から変わることはほぼ期待できないこと
を考えれば)現時点では警察を改善するのに最も有用な方法であることが確認された。

 第3部のパネルディスカッションは、
(1)検挙率が下がっている原因は何か
(2)なぜ、警察は告訴事件の処理に腰が重いのか
(3)公安警察部門の権限が拡大していることをどう考えるか
の3つの議題を柱として、各パネリストがそれぞれの立場や経験から意見を述べた。
(2)の関係では、桶川ストーカー事件の被害者である女子大生のお父さんが、上尾暑
の警察官からいかにやる気のない杜撰かつぞんざいな対応をされたか、被害者が殺害さ
れた後で、そのような対応をしていた事実を上尾暑が隠蔽しようとした有様などを、赤
裸々に涙ながらに話された。

 上記3点に重畳的に関わってくる問題点として、
・過度の成績主義や採用試験の難化により、本当に捜査実務に優れている人材が適性に
 配置されなくなっていること
・やはり成績主義・点数制がはびこっていることにより、警察官は解決困難と思われる
 事件の告訴を受理しないことで、検挙率の低下を防ごうとすること
・キャリアシステムによる士気低下
・警察は刑事警察活動よりも公安警察活動の方に重点を置く政治的傾向を持っており、
 したがって刑事畑の警察官は大変である半面出世につながらず、やる気が失せている
 こと
・事件が解決しないと問題になるが、事件を受け付けないなどの怠慢があっても、それ
 に対する制裁規定がないこと
・警察にはいまだに「組織の威信偏重主義」体質があること(黒木さんは、自分でも刑
 事裁判で偽証をしたことがあるし、警察官の証言の8〜9割は偽証ではないかと述べら
 れていた)
・警察を外部からチェックすべき公安委員会や警察署協議会が形骸的に運用され、チェ
 ックの機能を果たしていないこと、特に委員の選任が多く警察側の推薦などにより行
 われていることなどが指摘された。
 このシンポジウムで議論された内容がいまの警察問題の縮図なのであろうと思いなが
 ら興味深く聞き入っているうちに、あっという間に5時間が過ぎてしまった。

 最後の点に関しては、実際に山口県の公安委員を務めている末永弁護士から「自分が
委員になる前と比べて、少しずつではあるがよくなってきている。全国で175人いる公安
委員のうち弁護士委員は現在わずか10人だが、これが50人になれば随分変わるではない
か」と述べられていた。確かに、今回のシンポジウム開催に先立って、シンポジウム実
行委員会が18の都道府県に対して行った警察情報の「いっせい公開請求」により開示さ
れた資料をつぶさに見ると、山口県の公安委員会議事録は他の県のものに比べ、墨塗の
箇所も少ないし、議事録自体も、発言者の顕名を含め詳しく作成されている。今後われ
われは積極的に情報公開請求・訴訟活動を行っていく予定であるが、それとは別に、神
奈川県公安委員会の委員にも、弁護士委員が継続的に任用されるよう、神奈川県の弁護
士会でも組織的に働きかけを行っていかねばならない、などと思いながら会場を後にし
た。

 帰ってから、300数十頁にわたるシンポジウムの配付資料をぱらぱらとめくっていたと
ころ、実は1989年に島根県松江市で行われた第32回人権大会においても警察問題が取り
上げられ、上記とほぼ同様の問題点が議論されていたことが分かった。もちろん、この
間に情報公開の面では格段の進歩があったのであるが、13年の時を経てほぼ同様の議論
がなされていることを知って、警察問題の根深さ・改善の困難さを改めて思い知ったよ
うな気がした。

*
● 神奈川県警の組織的隠蔽はなぜ起こったか日弁連人権擁護大会
ー基調報告としてー (横浜弁護士会  山田 泰)

◇99年9月、厚木署警邏隊の集団暴行事件が発覚しました。一連の神奈川県警「不祥事」
の開始です。以降連日のようにメディアを賑わすことになりました。

 市民として何かできないか、単発の刑事告発運動というのではなく、継続的な市民運動
に発展させることはできないか。そんな思いを持つ市民オンブズマンのメンバーや弁護士
などが中心となって、「警察見張番」が発足しました。活動としては、情報公開制度を通
じ公安委員会や県警を監視していくことを主な目的としています。もっとも逆に本職の県
警にバッチリ監視されているようです。今日お見えの佐久間哲雄弁護士に代表を務めてい
ただいています。
 いくたの「不祥事」のなかでも、組織性、職務関連性、隠蔽性を兼ね備えるのが渡辺元
本部長等の犯人隠避・証拠隠滅事件であることははっきりしています。私たちはこの刑事
事件が確定したことから、この記録閲覧を中心において活動を開始することにしました。
 横浜地検は確定記録の閲覧を許可してくれ、マスキングも限定的でした。

◇私に与えられたお題は「神奈川県警の組織的隠蔽はなぜ起こったか」という大層立派な
ものですが、これに的確に答えられるくらいであれば、ウチが本部長やったると言いたい。
そこでここではこの記録を通じて見えてきたものを4点ほど申し述べてお茶を濁すことに
します。資料をお持ちの方は、29ページ、63ページあたりご覧になりながらどうぞ。
 第1は、酒寄元警部補が幻覚症状を示し、腕には注射痕もあって愛人と出頭してきたのに、
本部長に報告が届くまで12時間以上、誰ひとり尿検査など捜査をしていません。これは
裁判において、渡辺元本部長の弁護人も指摘しておられるところですが、県警の組織的体
質、病弊があった、これは、神奈川県警に限らず、警察組織の長年にわたる組織的病弊で
あるということを示している、更に本部長のもみ消し方針がさしたる抵抗もなく受け入れ
られたのもこの組織的病弊によるもの、としています。

 関係者の調書を見ると、薬物捜査を所掌する生活安全部長が汚れ役の一端を押し付けら
れることに多少の抵抗を示したものの、外の幹部は、監察室長を含め、もみ消し方針に異
論を示していません。ただ愛人を帰してしまったためにそこからバレる、特に警視庁あた
りに逮捕されたら一層組織的にダメージを受ける、そこで若干様子を見て退職にもってい
ったほうがよいという、時期の判断についてのみ疑問を示しました。もっともこれも間も
なく本部長から一喝されてしまいました。

 警部昇任試験問題と解答というのが、3年ほど前まで警察関係の日刊紙に載っていまし
た。自分のところの署員が他の地域で飲酒運転のうえ交通事故を起こしたと、事故現場を
管轄する警察から通報があった、幹部としてどうすべきか、といった問題です。模範解答
によれば、通報受理にあたって「報道関係者の事案察知の有無を確認し、察知されていな
ければ広報を控えるよう(事故現場の警察に)依頼する」。被害者対策も「加害者が警察
官であることは隠せないので、正直に身分を明かすとともに秘密の保持について協力をお
願いする」、報道対策として「組織に対するダメージを最小限にとどめるのが、この種事
案処理の目的でもある。事案処理にあたる幹部を最小限にするなど秘密の保持に細心の注
意を払わなければならない。また、報道関係が察知した場合の対策についてもあらかじめ
対応を考えておく」としています。お集まりの方の中で「正解」がわかる、警部になれそ
うな人はどのくらいいるでしょうか。

 神奈川県警のもみ消し事件でも、当然のこととは言え、この趣旨が徹底されました。監
察官がその部下に「マスコミに発覚したときに備えて、早めに想定問答集を用意しておい
てくれ」と指示すると、手慣れたもので、依頼免職の場合、依頼免職後女性から発覚した
場合、発覚している場合の3種類に分けたものが速やかに準備されます。よく報道される
官僚的なものですが、それぞれ違いがあるのです。

 第2は、渡辺本部長がもみ消しに動いた動機が、県警のイメージダウンを避けるためな
のかということです。生活安全部長(ノンキャリア)は、「そのころ渡辺の前任の本部長
で、警察庁警備局長に栄転していた杉田和博が内閣情報調査室長に栄転するという新聞報
道がなされていて、警察庁幹部の人事が取り沙汰されており、不祥事が発覚して自分の経
歴に傷が付くのを避けたいと考えたに違いない」と検察官に述べています。自分が警察庁
の幹部になる順番だ、それをはずされてたまるか、ということが本音ではないかと。

 第3は酒寄警部補が外事課であることもあって、秘密保持を徹底しながら警備公安部門
が迅速に動き出します。女性の行動確認や素性調査(特に暴力団との繋がりの有無)では
直ちにローテーションが組まれ、実家まで写真に収めます。酒寄の自宅を「任意ガサ」し
て、件の女性の写真を回収するなど、将来の正式捜索・差押に備えます。酒寄をホテルに
軟禁しますが、そこは警察OBが勤務しているところです。監視員2名がついて、ドア前
と窓側のベッドを押さえて自殺・逃亡防止を図るのです。酒寄の父親にも接触し「利用で
きる」とも判断します。女性に対する「手切れ金」の準備も相談しています。

 第4は一連のもみ消し工作の中で、キャリアの幹部である警備部長、外事課長は汚れ役
から遠ざけられます。幹部防衛でしょうか。発覚前ですが、外事課長代理以下は本部長注
意の処分を受けます。監察官はノンキャリアの課長代理に対し「今回の件で課長は処分に
なっていない。酒寄は表向き不倫を理由に諭示免職にしているから、通例にしたがって代
理以下を処分することになった。言いたいことはあるだろうが、納得してくれ」と伝えま
す。これに対し課長代理は「酒寄の所属長である課長が処分を受けずにどうして自分が処
分を受けるのか内心納得いかず、課長がいわゆるキャリア出あり、若くて将来もあること
から、経歴に傷がつかないよう配慮したのだろうと思いました」と検察官に述べています。

◇その後警察法が改正され、神奈川県や奈良県では公安委員会の指示によって県警の監察
実施結果が報告されました。神奈川県警の報告書では「一昨年以降県警察で発生した不祥
事案の中には、証拠品の悪用、情報の漏えい、捜査書類の虚偽記入、証拠品・捜査書類の
廃棄、被留置者に対する暴行、捜査対象者からの収賄等、職権を悪用して引き起こされた
ものも多い。この種事案は、県民の警察に対する信頼を最も裏切るものであり、徹底した
根絶対策が必要である」と指摘されています。しかしその後、泉署において合鍵を使って
女性留置場に入り込んだり廊下に連れ出したりして計7回性交渉等をもった事件が発覚し、
この8月、懲役3年の実刑判決が言い渡されました。まさに「県民の警察に対する信頼を
最も裏切る事件」が再び発生しました。他方この監察実施結果には、本部行事、会議、報
告資料等の削減を求める声が一線に強いことなども紹介しています。幹部はどこを見て仕
事をしているのか気になるところです。

◇警察改革の道は、市民が市民の目線で物を言っていく、そのために情報公開を積極的に
求めていく、このようなことから始まるのではないかと思われてなりません。

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