第14号

(2004年4月15日)
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        ========== 目 次 =========
    ● 警察小説が読まれる理由             (北川 善英)

    ● 防災警察常任委員会を傍聴して思う        (山田 健造)

    ● 0点をつけられた神奈川県警           (鈴木 健)

    ● 芳野直子弁護士の講演をきいて          (柿坂 寛之)

    ● 保土ヶ谷事件のその後              (小川 国亜)

    ● 事務局より(新事務局長のご挨拶)        (鈴木 健)

    ● 編集後記                    (生田 典子)

       ========================


*

● 警察小説が読まれる理由
(横浜国立大学教授:北川 善英)


 いま、「警察小説」が読まれています。『小説新潮』が「警察小説大全集」というタイトルで
 3月臨時増刊号を出したほどです。その冒頭の論考で高村薫が興味深い指摘をしていました。

@日本近代(大正時代)の犯罪小説が、なぜ、「警察小説」ではなく「探偵小説」(明智小五郎
 探偵を主人公とする江戸川乱歩の作品が代表的)として生まれたか‥‥高村薫によれば、その
 理由の一つは、明治以降、日本の警察が内務省的な官僚組織(おカミ)であり、庶民にとって
 は正義の味方どころか敵であったこと。
A今現在、高村薫にとって、犯罪小説や警察小説が書きにくくなっている‥‥神戸連続児童殺傷
 事件や世田谷一家殺害事件などのように、個人的・社会的背景を持たない、「物語性のない、
 ただただ残酷な事実」としかいいようのない事件の多発が、物語性を不可欠とする小説に困難
 な課題を投げかけている。

 それでは、なぜ、いま、「警察小説」が読まれているのでしょうか。
@の指摘は、戦後、人権・平和・民主主義を基本原理とする日本国憲法が定着するなかで、警察
 がまがりなりにも市民の生命・自由・財産の安全の担い手として、庶民の正義の味方となるこ
 とが期待されたことで、ある程度の説明はつきます。実際、1950年代後半から、ノンキャリア
 のベテラン刑事を主人公とする「警察小説」がいっせいに登場します。現在の「警察小説」人
 気は、治安・安全の悪化という現状に対して、警察・警察官が「正義の味方」として活躍して
 ほしいという市民の期待と、相次ぐ「不祥事」による不信や失望とが、ない交ぜになった結果
 ではないでしょうか。

Aの指摘は、別の視点から捉え直すことができます。現在の「警察小説」の隆盛を支えた諸作品
 《大沢在昌『新宿鮫』(1990)―高村薫『マークスの山』(1993)―乃南アサ『凍える牙』
 (1996)―横山秀夫『陰の季節』(1998)》には、ある共通性があります。キャリアとノンキ
 ャリア、刑事警察と公安警察、本庁と所轄、女性刑事と男性刑事といった警察組織内部のさま
 ざまな軋轢が描かれ、時として、それらの軋轢が生み出した(隠蔽した)犯罪が描かれている
 ことです。大ヒットした映画『踊る大捜査線』についても同じことが言えます。他方で、「警
 察小説」の隆盛の時期は、市民やメディアの働きによって警察官・警察組織の「不祥事」が次
 々に明るみに出るようになった時期と重なります。
 かつては、事件・犯罪の発生現場は警察の外部でした(実際には、警察の内部で事件・犯罪が
起きても、その秘密主義・組織防衛主義によって見えなかった)。しかし、現在では、警察官・
警察組織もまた、個人的・組織的・社会的(時には権力的な)背景を持った「物語性」のある事
件・犯罪の発生現場として市民の前に立ち現れ、そのことが「警察小説」の隆盛をもたらした、
と捉えることができます。

 今後の「警察小説」では、警察官・警察組織は、事件・犯罪の当事者として、「市民の敵」と
して描かれるようになるのでしょうか、それとも、再び市民の「正義の味方」として描かれるよ
うになるのでしょうか? 
 組織ぐるみでの裏金作りを告発する勇気ある元警察官たちの登場は、新しい「警察小説」の内
容に明るさと力強さを与えてくれることだけは確実です。           

*
● 防災警察常任委員会を傍聴して思う (山田 健造)

 昨年に引き続き、今年も防災警察常任委員会を3月3日・4日・19日の三回傍聴しました。  
今回も、傍聴者には審議資料等は一切配布されませんでした。議員の先生方は小さな声で、
しかも早口で発言されますので、一生懸命耳を立て要点をメモするのですが、審議内容に判ら
ないことが多々ありましたが、ご報告します。

<3日の委員会では>
内容は、主として防災予算の審議であり、地震対策、他大規模災害に対する予算を、63億7
千8百万円の前年度に比べて、37.8%の増加を審議していました。国民保護法制に関連し
て、大規模テロに適用する。県の部局に、対応選任職員を3名体制で配置する。危機管理対処
方針(化学物質、爆発物、原子力)・アルカイダを想定して対策本部でマニュアルを作成する。
また100万人規模対応備蓄基地を扇島に計画し、液状化も考え、堅固なものにする。行政無
線の整備、設置後、40年経過し、老朽化した有線の活用、衛星通信等を利用し、交換費用と
して98億円、市町村2分の1の負担(60年〜58年時建設費62億円を使っている)。
災害援助基金として全国の自治体で、平成11年300億円を積み立て、県の負担分は、
18億円を支出。以降全国で21件21億余の支出あり、今回また300億円の積立て要請が
あり、県の負担分18億円。これは、国の交付金で賄う。・・・という県担当職員よりの説明
がありました。これには議員サイドより異論があり、「積立額に対して災害時の給付が低すぎ
る、国の制度にせよ、県が金を出す必要があるのか」等々という質疑応答が続き、一日が終わ
りました。

<4日、2日目の委員会は>
午前から午後にかけ、議員の警察学校視察があるということで、委員会は2時30分開会とな
りました。2日目の審議は、治安対策として、警察官増員に伴う養成施設の増強・改善でした。
「現施設は40年を経過し、立替えを迫られているが、国費の予算が足らない。是非県費でつ
くって欲しい。現在、学校寮は数棟のプレハブ棟で養成生徒を収容している。」というのが県
警の主張です。視察した議員からも、「近い将来治安を担当する警察官の養成施設として、あ
まりにもお粗末であり、満足な食堂・風呂場も不足している。早急な改善が必要」という意見
が出ていました。
 県警は、建物としてSRC(6階建500人収容の建物を想定)を要請。設計費用として5
千7百万円を委員会に求めました。また、5月・9月・2月の年3回、740名位の採用を予
定。しかし、全国的に若年人口減の中で増員は全国規模で求められているので、採用枠の確保
が厳しいこと。試験の内容、給与、年齢分布等、の説明を県警担当者から受けて、2日目の委
員会は終了しました

<予定されていた17日の委員会が>
 委員会3日目の17日は、98条問題等から生じた議会の混乱の結果、19日に延期されま
した。
日程は変更されて傍聴者としては不満でしたが、例の「不祥事」が登場し、耳目をそばだてま
した。北海道警察・静岡警察・福岡警察の不正経理問題に関連して、神奈川県警に対しての県
民の疑問、会計処理上の流れ、捜査費の現金決済の内容などに対する質問が出ました。それに
対して、「県警部局より内部監査として監査室が年1〜2回チェックし、他に警察庁、会計検
査院よりも検査を受けている。現在、県警の犯罪捜査予算は、1億8千4百万円。また、支出
に伴う関係書類は5年間保存」、という答弁が県警本部長からあり、続いて、県警総務部長が
「自信をもってこの5年間不正はいっさいないと明言できる」と発言。明言できるのかという
問に対しての答えです。

 県警の経理をめぐり松沢知事は、「疑惑に関連して、警察庁で全国の警察の実態を把握し、
問題があれば対応していくのが第一。まず、警察庁・県警の自浄能力に期待したい」と述べ、
知事自らが特別監査などを指示して県警を調査する考えを否定したと報道されています。この
大きな問題に対して、知事も議員も警察にはかなり遠慮しているな、というのが傍聴していて
の実感です。警察の報償費疑惑が毎日のようにメディアで報道されていた時期でもあり、私は、
この防災警察常任委員会で、議員先生方にもう少し突っ込んだ質問をして欲しかったと思いま
す。それが、この委員会の議委員の仕事ではないか、と思うからです。
 その他、事故捜査をめぐり係争中である「保土ヶ谷事件」について県警は、「鑑定」を信じ
ているとし、委員会は継続審議としました。

<傍聴報告の締めとして>
 資料を傍聴者に配付することを拒む委員会の考えが分かりません。埼玉県でも千葉県でも実
行されて不都合はないそうです。東京は、人数が予測できないとの理由で配布せず議会事務局
で閲覧できるといいます。県議会の公開度はなかなか進展しませんが、これからも皆さんと共
に、傍聴者にも審議資料を配布するよう求めていきたいと思っています。  
               
(審議資料がなく、聞き取りにくい条件の中でメモをとりまとめてくださった山田さんに感謝。
編集子)

*
● 0点をつけられた神奈川県警  (鈴木 健)

――第8回全国情報公開度ランキング――

[1] 前回の見張番だより第13号において、昨年11月18日、全国の市民オンブズマン組織
が一斉に情報公開請求を行い、それに伴う形で、我が「警察見張番」も、神奈川県警に対し情報
公開請求を行ったことをお伝えした(全国市民オンブズマン組織と共通のものは、@県警本部監
査関係資料、A県警の激励慰労費支出関係資料、の2点)。
 全国市民オンブズマン連絡会議は、上記2点に加え、B首長、部(局)長交際費の相手方情報、
C入札書類の予定価格情報、D土地開発公社の取得土地に関する情報、の計5点につき各都道府
県に情報公開請求し、得られた結果を本年3月に「第8回全国情報公開度ランキング」としてま
とめた。今回は、そのうちの警察関係項目の評価結果についてご報告する。
 ちなみに、上記5点についての情報公開度をランク付けした結果、神奈川県は94ポイントで、
47都道府県中32位タイ(120点満点)と、半分以下の成績となっている。

[2] 警察関係の請求項目である、@県警本部監査関係資料、A県警の激励慰労費支出関係資料、
のうち、@については、前回お伝えした「見張番だより第13号」発行の時点ではまだ公開され
ていなかった。その後公開され、その中身について全国市民オンブズマン連絡会議がつけた評点
は37ポイント(45点満点)であり、これは、全体としては中程度に位置づけられる評価であ
る(内容は細かいので割愛)。

[3] これに対し、A県警の激励慰労費支出関係資料については、評点ゼロ(満点10点)とい
う非常に厳しいものであった。
 すなわち、評価基準を、激励慰労会の参加者氏名がどこまで公開されているかに置き、全面公
開の県警は10点、警部補以下非公開が8点、警部以下非公開が6点、非公開及び記載なしが0
点としたところ、神奈川県警は参加者氏名の記載が全くなかったのである(たより第13号資料
1、2参照。人数は記載されているが、参加者氏名の記載は全くない)。
 ちなみに、0点とされた県警は、神奈川の他に沖縄、岐阜、千葉、福岡、東京と、全国で6県
しかないということであり、神奈川県警の情報公開度が、全国の県警の中でも非常に低いことを
物語る。39都道府県が警部補以下非公開で8点。2県が警部以下非公開の6点だった。(資料
として、8点を取った石川県警の出席者名簿を揚げる)。

 激励慰労費とは、捜査活動に従事した警察官が飲食に用いることが許されている経費のことで、
参加者名簿を非公開にすることで、実際には行われていないか、あるいは人数を水増し申告して
得た激励慰労費を裏金に回すことが可能となっているのではないかとの疑念がある。全国市民オ
ンブズマン連絡会議は、「そもそも身内だけの激励慰労費の出席者名簿を作成しない6都県は問
題外」と厳しく糾弾している。

[4] 加えて全国市民オンブズマン連絡会議は、県警本部監査関係資料の公開度についての解説
の中で、「最近、北海道警をはじめとして、全国の複数の県警で捜査補償費や旅費を財源とした
裏金づくりが問題とされています。これらが報道されること自体、監査委員の監査が警察の不正
支出に対しては無力であったことを証明しています」と指摘しており、また、自治体の情報公開
でもっとも遅れているのが県警の情報公開であるとしている。ここでも、我々のような市民団体
による継続的な監視活動の重要性が確認された。

[5] 加えて、この間に、近時、静岡県警が旅費・食糧費について不正支出であったことを認め
る調査結果を公表したり、北海道警が報償費予算から裏金を作っていた疑いが濃厚となるなど、
最近沈静化したかと思われた警察不祥事が、再び時事ネタとなりつつある。
 そこで、警察見張番では、3月16日に神奈川県警に対し、@過去5年間にさかのぼって、
神奈川県警の旅費、食糧費、報償費等の支出が実際において適正に行われたかどうかを厳正に調
査すること、A違法または不当な支出があった場合には、その手法や使途等を明らかにすること、
Bこれらの調査結果を県民に詳細に公表すること、を内容とする申入書を提出した。(添付資料
参照)

 今後は、県警にとって「最も探られたくない腹」がどこにあるかを研究し、そこに情報公開請
求をかけ、最終的には行政訴訟で勝ちきることを次の活動の柱とすべく、鋭意準備中であるので、
乞うご期待!
       

*
● 芳野直子弁護士の講演をきいて  (柿坂 寛之)

 3月22日(月)に開かれた「見張番」の定例会は、すこぶる楽しいものだった。今回のゲス
トスピーカーは、横浜法律事務所に所属し、労働事件など多数の訴訟に関わっている芳野直子弁
護士。講演は、題して「調書差し替え事件」。

 芳野弁護士は、会が始まる前にテキパキと白板に地図を書き始め、いよいよスピーチが始まる
や、それは、小説「疑わしきは罰せず」の題材にしたい話。私が小説家ならこのタイトルで推理
小説を著したかもしれない。

 以前、同名の推理小説があったような気がしてネットで検索したら、赤かぶ検事が活躍する和
久俊三著「疑わしきは罰せよ」がヒットした。う〜ん、今回の事件とはまったく違うが、この事
件を担当した警官や検事の気持ちにぴったりかも。

          ◇

 さて、これに対し今回の「疑わしきは罰せず」に登場するのは、正義感あふれる切れ者美人女
性弁護士。真実を追及するため、事故が起きた深夜3時すぎにも現場に何度も足をはこぶ。
 容疑者である運転者が青だと思った信号が、警察官の「この信号は連動しているのだから、赤
を見間違えたのだろう」という言葉に、彼は「見間違えたのかもしれない」と認めてしまう。そ
れが自白となってしまい、その後、その自白を覆すことになったが、容疑者の自白は、信用でき
るものなのか? 容疑者はなぜ自白を翻したのか?事故発生直後の60分後と80分後に行ったとい
う警察の信号機実験は、本当に存在したのか?事故時刻を午前3時42分20秒と秒まで特定されて
いるがその根拠は?証拠は?

 友人を助けたいという思いを持った容疑者の同僚の熱意、そして諦めることを知らないこの女
性弁護士の情熱をかけた調査のなかで、警察がしかけた虚構が次々と剥がされていく。つまり、
手前の信号と連動していない信号を連動していると決めつけ、「赤を見間違えたのかも」と自白
を誤導したことや、事故の起きた交差点の次の信号の「青」を見て「赤」なのに交差点に入った
という警官がつくったシナリオを解明すべく、弁護士は異なる時間、異なる季節に現場を訪れて
いる。ついに、その問題の「信号」は、手前の大きな木に遮られて見えないことを突きとめる。
また、事故時刻の特定に使われたというコンビニの防犯ビデオは消去されていて証拠として残っ
ていないことなども明らかにすることができた。

 だが、事故直後の信号機実験を記した「実況見分調書」の内容は重い。この調書を覆さないと
無罪はむずかしい。弁護士は綿密に調書を読み込んでいく。「この調書はおかしい。見分に立ち
会った人の名前の中に容疑者が入っていない。それなのになぜその調査を行ったパトカーに容疑
者は乗っているのか?」 行き詰まった弁護のなかで、何度も何度も問題の調書を端から端まで
読み返してみた。そのとき、なにか違和感が走る。一連の文書であることを示す検印がない! 
「この調書は差し替えられている!」 そこは、まさに問題の場所だった。
           ◇

 こんなストーリーはいかがだろう。このストーリーは、まだ脚色していないので小説として描
くときは、もっともっと面白くなること請け合いなのだが、誰かが書いてくれないかなあ。

 しかし、これは小説ではなく、true storyなのだ。なぜこんなことを警察はしたのだろう。
警官自身、信号が連動していると思い込んでいて、その線で自白を得たため、その他の必要な捜
査をしなかったという初動捜査のミスを、なんとか犯人をつくらなければならないという立場で、
覆い隠そうとしてしまったのだろうか。一方、この事件で容疑者にされた人は、「警官がうそを
つくはずがない、自分の記憶が間違っているのだろう」と最初の自白をしてしまったそうだが、
これも私たちは教訓としたい。警官はウソをつくのである。

 最後に、この事故で亡くなった方の遺族の気持ちは複雑だろう。民事では双方の保険で賠償さ
れているとはいえ、肉親を殺した犯人がいなくなってしまったのだから。しかし、被害者の感情
にシフトしすぎて、刑事訴訟法の大原則「疑わしきは罰せず」をないがしろにして冤罪被害者を
生み出すわけにもいかないことも確かだ。多くのことを考えさせられた講演であった。
                

<調査差し替え事件>
――芳野直子弁護士のレジメより――

1事案
事案は、信号のある交差点で、タクシーと普通乗用車が衝突し、タクシーの乗客が死亡した交通
事故。事故直後、衝突した車両の両運転者はいずれも自車の対面信号が青信号であると主張して
いた。

2「自白」の誤導
事故後、警察はタクシー運転手に対して、本件信号機は連動性であると誤導して「自白」を引き
出した。

3起訴にいたる経緯
4裁判の論点
@	事故時刻の特定
A	60分後、80分後実験の存在
B	自白の有無
C	相手方の供述の信用性

5調書差し替えが発覚する経緯
6これに対する検察側の対応
7判決
2004年1月22日に横浜地方裁判所第2刑事部合議係で、業務上過失致死事件について無罪
判決が下った。「一部を後に差し替えられた疑いが否定できず、信用性に疑いを入れる予知があ
る」


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