第15号

(2004年8月26日)
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        ========== 目 次 =========
  ● 三菱自動車の姿に                (佐久間哲雄)

  ● 第5回見張番総会を終えて            (鈴木 健)

  ● 増える"個人の責務"               (北川 善英)

  ● 「生活安全条例」とは              (山田 健造)

  ● 5分の遅刻も"規則"の一点張り          (橋本 光治)

  ● 私にも言わせて!                (投稿者4人)

  ● 事務局からのお知らせ              

  ● 編集後記                (生田 典子)

       ========================


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● 三菱自動車の姿に  (代表幹事:佐久間哲雄)
                  
 三菱自動車が、系列会社の三菱ふそうと共に、連日新聞で或はテレビで批判にさらされて
います。何年も前から、自動車の欠陥を隠し続けていたことが明らさまになりました。
 社長以下首脳陣が記者会見で「これで隠していたことは全部明らかにしました」と発表し
た舌の先も乾かないうちに、新たな欠陥隠しが暴露される始末で、多くの人々を嘆かせ、怒
らせています。    

三菱自動車が三菱重工業の一部門であったのは、そんなに昔のことではありません。三菱重
工業と言えば、三菱グループの代表的企業であり、土地バブルの中で日本中の企業が土地投
機に走り廻った中で超然として本業に邁進していた企業です。誇り高い企業であります。
三菱重工業から分離独立した三菱自動車に寄せられたユーザーの信頼は、厚いものがあった
と思います。 
名門三菱自動車で、このような無残と言うべき不祥事が何故発生したのでしょうか。何万人
かの社員、沢山のディーラーや修理工場で働く人々が、自動車の欠陥を全く知らなかったと
は思えません。知っていても言い出せなかった、誰かが何とかするだろう、自分が言っても
無視される、或いは嫌がられるのがおちだろう等々、さまざまな事情が伏在するに違いあり
ません。私のみならず多くの人々が嘆いたり怒ったりしたのは、どうしてでしょうか。恐ら
く、天下の三菱自動車ともあろう会社が、かくも情けない会社、無気力で職業倫理の崩壊し
てしまった会社になってしまったことにあると思います。 

私は、日本の警察の現状に思いを馳せました。日本の警察は、世界に冠たる存在だったのに、
現状は自信を失ってしまい、進んで職務に邁進する積極的な気風がすっかりなくなっている
ように思えてなりません。三菱自動車の姿と重ってみえるのです。 
治安が失われたときどのような惨状になるかは、イランの状態を引くまでもなく国民はよく
理解しています。私たち警察見張番は、警察官が誇りをもって職務に取り組めるよう、微力
でありますが力になりたいと思っています。

*
● 第5回見張番総会を終えて (事務局長:鈴木 健)

<情報公開訴訟提訴延期のお詫び>    
 7月23日(金)に行われた、警察見張番2004年総会において、私は、「警察見張番」
発足以来力を入れていた「渡邊元本部長等の犯人隠避・証拠隠滅事件の記録閲覧作業が、
『検察調書があかす警察の犯罪 神奈川県警覚せい剤事件つぶしの記録』として明石書店か
ら発行される」という発足期の課題を果たしたこと、そしてその次のステップとして「情報
公開制度を活用した市民的監視という設立目的に沿っての歩みが求められている」という昨
年の方針通り本年度は、適宜情報公開請求を行ってきた非公開の部分につき、いよいよ情報
公開請求訴訟を近日中に提訴する予定であること、具体的時期については、8月中に目途を
つけてこのたより15号で報告し、9月くらいに提訴を考えていることをお話した。

 ところが先日、この手の情報公開訴訟を先んじて手がけておられる、仙台市民オンブズマ
ンの小野寺信一弁護士に、宮城での訴訟において提出されている訴状等の情報提供をお願い
したところ、小野寺弁護士から「実は、宮城で現在進行中の情報公開訴訟は知事が被告で、
非開示事由の立証責任は被告(県)が負っているところ、警察を実施機関に加えた新条例の
もとでは、非開示としたことの『相当の理由』を原告(住民)側が主張立証せざるを得ない
という条文構造となっているため、この新条例のもとでどのように情報公開訴訟を進めるこ
とが有効かについては、第11回全国市民オンブズマン函館大会(8月28〜29日)の警
察問題分科会で話し合う予定であるので、その結果を基に提訴を考えられたらどうか」との
返事をいただいた。
           ◇ 
 同大会には、警察見張番からも2名参加する予定です。従いまして、神奈川県警を相手取
った情報公開訴訟は、同大会での検討結果を踏まえ、秋のうちには提訴したいと考えており
ます。今少しお待ちください。

<やる気のない公安委員会>
ところで、警察見張番では、静岡県警が、旅費・食糧費について不正支出であったことを認
める調査結果を公表し、また北海道警でも、報償費予算から裏金を作っていた疑いが濃厚と
なるなどしたことから、2004年3月、神奈川県監査委員会及び神奈川県公安委員会に対
し、
   @過去5年間にさかのぼって、神奈川県警察の旅費、食糧費、報償費の支出が実態に
おいて適正に行われたがどうかを厳正に調査すること
   A違法又は不当な支出があった場合には、その実態や使途を明らかにすること
   Bこれらの調査結果を県民に詳細に公表すること
の処置をとるよう申し入れを行った。そして、このような処置をとった形跡が見られないこ
とから、去る7月23日付で、上記処置がとられたかどうか確認させていただきたく、面接
の申し入れをさせていただきたい旨の文書を送付した(添付資料参照)。
 ところが驚くべきことに、これに対して神奈川県公安委員会からは、資料のとおり、面接
の申し入れさえ拒否する文書を送り返してきた。
 このような回答をしてくるということは、当然、上記のような処置を何らとっていないこ
とを自白したものと考えざるを得ず、県警を監視監督する立場としての公安委員会の職責を
果たそうとする姿勢が全く見受けられない。しかも、申し入れに対して「なしのつぶて」に
出ることは私としてもある程度予想はしていたが、このように捺印・契印のある正式文書で
拒否回答してくるという態度に出てくるのを見ると、市民感覚と遊離し、自らの職責につい
て自覚しようとしない公安委員会の性格を見たような気がした。

 何度も折に触れ書いてきたことであるが、「制度上予定されている監視監督機関が実際に
は機能せず、市民団体による監視によってしか改善は期待できない」ことを、今回の件で改
めて実感した次第である。     

*
● 増える"個人の責務" (横浜国大教授 北川 善英)

――生活安全条例と改憲論――                        
 本年度の総会の前半は、渡辺登代美弁護士の講演『生活安全条例でオヤジ狩りは防げる?』
でした。講演のなかで紹介された町田市生活安全条例と神奈川県暴走族追放促進条例には、
それぞれ「市民の責務」、「県民の責務」が独立の条文として設けられています。また、人
権教育・人権啓発推進法(2000年)の第6条も、「人権尊重の精神の涵養」と「人権が尊重
される社会の実現に寄与する」ことを「国民の責務」としています。このように"個人の責務
"を定める法律や条例が急に増えているのが、最近の立法の傾向です。

 他方で、自民党改憲プロジェクトチームが公表した『論点整理(案)』(2004年6月)は、
新たに、「社会保障制度を支える義務・責務」、「国の防衛及び非常事態における国民の協
力義務」、「国民の憲法尊重擁護義務」を憲法に明記することを主張しています。読売新聞
社の『憲法改正2004年試案』は、現行第99条の「公務員の憲法尊重擁護義務」を削除する一
方で、「国民の憲法尊重擁護義務」を新しい前文で明記することを主張しています。

 以上の二つの例は、"個人の人権保障という目的のために、国家権力は憲法・法律によって
規制されなければならない"という「法の支配」(憲法・法律にもとづく政治)の本来の意味
が、主客転倒されていることを示しています。本来、国家権力を担う政治家や高級官僚とい
った公務員にこそ「憲法尊重擁護義務」は課せられるべきなのです。市民生活の安全や暴走
族の追放、人権尊重や社会保障制度の維持・充実は、本来、国家権力を担う者に課せられた
責務・義務であるはずです。
 話を元に戻しますと、生活安全条例の根本的な問題点は、「安全」の名の下で「自由」が
抑制されるということだけでなく、国家権力がその本来の公共的な役割を縮小させ、それを
市民に転嫁するということでもあるのです。生活安全条例問題は、根っこの部分で改憲問題
とつながっているとも言えます。

*
● 「生活安全条例」とは   (山田 健造)

――渡辺弁護士の講演を聴いて――
 04年7月23日、「警察見張番」の第5回総会が開かれました。会の前半に特別講演が
ありました。講師は渡辺登代美弁護士です。「生活安全条例でオヤジ狩りが防げるか」とい
う不思議なタイトルです。条例という言葉から、何か難しい話になるような気がしていまし
た。が、実際に講演が始まると、渡辺弁護士の気取らない話し方のせいもあるかもしれませ
んが、ぐんぐん引き込まれていきました。

<名前は違っても生活安全条例>
今や各自治体で、条例の名前は個々に違っていても、いわゆる生活安全条例が制定されてい
ることを様々な例を挙げて説明されました。石川県・奈良県・宮崎県では100%制定され
ていることにもおどろきましたが、わが神奈川県でも逗子市・横須賀市・鎌倉市・座間市・
厚木市・葉山町・山北町に条例が制定されており、山北町には、「防犯指導隊」と名付けら
れている自治組織もあるそうです。「安心・安全のまちづくり」という言葉が使われている
と、私たちの生活が護られているような気がしてきますが、大阪府の場合、「バットやゴル
フクラブの目的外の所持を禁止し、違反には罰則」があり、千代田区では、「路上喫煙禁止、
ホールなどには防犯カメラの設置」を義務づけられ、杉並区では、「犬の糞放置罪」もある
そうです。これらの条例によって、うっかり野球のバットを持っていることも「不法所持禁
止罪」になり、うっかりで「ペットの糞放置罪」にもなりかねないほど、気づかないうちに
条例で身の回りが金縛りになりそうな世の中になりつつあることを感じました。     

<割れ窓理論から> 
 この生活安全条例が提案される理由に「割れ窓理論」があるそうです。これは「ビルの割
れた窓を放置しておくと、監視の目が届かないと見て、無法者が更に次々と窓を割り、やが
て大きな犯罪につながる」「小さな犯罪の摘発が大きな犯罪の防止」になるという、米国の
学者ジョージ・ケリングの説だそうです。

<防災警察常任委員会でも>
 03年10月7日の神奈川県議会・防災警察常任委員会で、犯罪検挙率の低下が問題にな
りました。「現在の検挙率は19.2%だが、県警としては警官の増員により、検挙率を
25%にアップしたい。しかし、これも戦力化するまでに2年から2年半はかかる。警察
OBの採用により、空き交番をなくし、地域住民のトラブルの相談に当たらせる」という
プランなどが県警本部長及び担当幹部から説明がありましたが、議員からはほとんど質問が
ありませんでした。それら県警からの説明は、「生活安全条例」と関係していることだと思
えるのですが、議員たちはこの条例に対して知識も意識もないらしく、また単純に「安心・
安全のまちづくり」はいいことだ、と思っているように感じられました。
 なお、県議会では、本会議で「神奈川県暴走族等の追放促進に関する条例」を可決してい
ます。

<犯罪の多発情報に操作される>         
少年犯罪の激増、不法外国人による犯罪の増加と、毎日の新聞やテレビのニュースで種切れ
になることはありません。また、三菱自動車・埼玉県警察交番事件などは、ともにモラルの
欠如以外のなにものでもありません。特に交番事件では数十人の市民が事件を見ていたにも
関わらず、市民を護るべき任に当たる警官が犯罪を放置し、重大な職務怠慢を行っていたこ
となど、人々の心には警官にたいする怒りと不信感が益々高まっています。朝日川柳の投稿
欄に「居なくても居ても交番役立たず」「窮鳥も交番だけは避けて飛び」とありましたが、
信頼も形無しです。治安を護る警官の職務意識が低ければ、交番はただの箱です。警官の大
幅増員、空き交番の解消には、確かに大幅な予算が必要となります。そんな中で、「生活安
全条例」は、自分たちの生活を護ってくれるいい条例だと、みな単純に思いがちです。

 それでは、「生活安全条例」を作って徹底させれば犯罪は防げるでしょうか。このことは、
渡辺弁護士も講演で問いかけていました。「埼玉県のある自治体が軽自動車を2台購入し、
ボディに大きく『防犯パトカー』と書き、他の自治体に貸し出して好評だそうですが、これ
は民衆の警察化、住民の相互監視となり、「不審者」「異端者」の排除とつながる危険をは
らんでいます。自分たちの安全を自分たちで護るという自警団の設置など、安全条例の名の
下で、戦時中の警防団・愛国婦人会・大政翼賛会の悪夢がよぎるのは考えすぎだろうか。
「生活安全条例」の美句のもとで、自治会、町内会等の組織を強化し、協力しない人間には、
非国民、異端者のレッテルを貼り、君が代・日の丸も強制し、次第に憲法の改正、9条の改
廃へと進んでいくような気がしてなりません。 
 タイトルの「生活安全条例でオヤジ狩りは防げるか」の意味が非常に奥深いことがよく分
かりました。私たちは「安全」「安心」などの曖昧な言葉に惑わされないように、情報に操
作されないようにしたいものです。
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