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(2006.07.24.)

* 警察見張番だより 21号の1
 <21の1>   <21の2>   <21の3> 
***** もくじ *****

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<21の1>
     ● 30年前の裁判所と私達の情報公開訴訟

     ● 文書非開示処分取消し請求訴訟ー証人尋問行われる!

<21の2>
     ● 証言台初体験の記

     ● 横浜地裁を傍聴して

<21の3>
     ● 傍聴者、それぞれの感想を!

     ● 事務局より

     ● 編集後記

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目次へ :
● 30年前の裁判所と私達の情報公開訴訟
                             弁護士 佐久間哲雄

 横浜地方裁判所におられた裁判官で定年退官後神奈川県公安委員会委員長をされた方がいる。
野瀬高生さんという。刑事部の裁判長を長年勤められた。
 私の実務修習地は横浜で、1965年4月司法修習生として初めて地裁に出向き、修習開始
式に臨んだ。このときの横浜地裁の所長は、後に最高裁長官として一時代を画した村上朝一さ
んだった。その威風に圧倒されたのを昨日のことのように覚えている。この村上さんと並んで
野瀬高生さんも開始式に列席してくれていた。

 当時横浜地裁には、仏の○○裁判官,鬼の××裁判官などと云われていた人たちがいたが、
野瀬さんの刑事法廷も独特の雰囲気があった。検察官、特に若い検事には厳しく、被告人には
優しく、弁護人、特に駆け出し弁護士には厳しい中にも優しかった。証人の警察官には非常に
厳しかった。「嘘を云ってはいかん」というようなことも口にした(裁判官はこの種のことは
まずいわない)。ある時、「あんたたちが一番嘘を云うんだよ」というのを聞いたことがある。
 「あんたたち」というのは勿論、警察官のことである。

 1967〜8年のことだったと思うが、アスパック事件といわれる凶器準備集合被告事件を
野瀬さんが担当したことがある。伊豆の川奈ホテルで開催が予定されていた東南アジア諸国の
外相会議を阻止するという学生らを、神奈川県警の機動隊が小田原駅で一網打尽にした事件で
ある。

 当時東京地裁では、安田講堂事件などの集団学生事件を、10人程度の被告人グループに分
けて裁判を進めていた。アスパック事件で横浜地裁に起訴された学生は32名で、横浜でも東
京地裁に倣って10人程度の被告人グループに分けて裁判を進める計画を立てた。事件自体は、
凶器準備集合罪という一個の事件であったから、学生らは分割裁判に当然抵抗した。野瀬裁判
官は、「学生の要求は尤もである。私が引き受けよう」と言って32名全員の統一公判が実現
した。

 私は、駆け出し弁護士としてその弁護団の末席に連なった。その法廷での野瀬裁判官の訴訟
指揮は、他の事件と同様検察・警察当局に対してきわめて厳しく、裁判長の野瀬さんは、退廷
命令を出すような騒ぎは一度も発生させないで極めて迅速に審理を遂げ判決を言い渡した。

 その野瀬さんが、神奈川県の公安委員になったことを聞いたとき、私は正直いって信じられ
なかった。その後、更に公安委員長に就任したときには、まさかと思った。
 今振り返って思うに、野瀬さんがおられた頃の横浜地裁には個性豊かな裁判官がおられたが、
おそらく警察の組織においても、現在とは違ったかなり自由な雰囲気があったのではないかと
思う。

 私は、1989年、緒方靖夫共産党国際部長宅の盗聴事件にかかる住民訴訟の弁護団長を引
受けた。その第1回口頭弁論の法廷で「残念ながら,現在の裁判所を見るにどの裁判官も金太
郎飴のようである。この住民訴訟においては蛮勇を奮って真実が何であるか見定めて欲しい」
と訴えた。野瀬さんのおられた頃からちょうど20年程立った頃のことである。

 緒方さんの住民訴訟事件が始まった時点から、そろそろ20年近くになる。裁判官の金太郎
飴化は一段と進んだように思えてならない。
 神奈川県警を含む警察組織もおそらく同様の傾向が出ていると思われる。
 私たちの「警察見張番」が提起している情報公開を求める訴訟は,この傾向を市民の手で喰
い止め、更には市民・県民に開かれた警察の実現に繋がる有力な一手段であると思う。

目次へ :
     
● 文書非開示処分取消し請求訴訟ー証人尋問行われる!
                                         
                            弁護士 鈴木 健

1 我々「警察見張番」が原告となり、神奈川県警本部長を被告として起こしている「文書非
開示処分取消請求訴訟」につき、ついに平成18年6月26日(月)(13:30〜16:00)
証人尋問が行われた。

 証人採用されたのは、原告側証人として、「警察見張番」にも例会講師として出ていただい
た大内顕さん、被告側証人として、平成15年度警察本部交通指導課課長代理であった森藤
(もりとう)秀之氏の2人。

2 この訴訟の内容を若干復習しておくと、「警察見張番」が神奈川県警本部長に対し情報公
開請求したのは
 ・平成12年度・15年度警察本部交通指導課の捜査報償費(県費)支出に関する一切の資
料(現金出納簿および支払証拠書類)
 ・平成12年度・15年度警察本部少年課の捜査報償費(県費)支出に関する一切の資料
(現金出納簿および支払証拠書類)
であり、これに対し、
 ・現金出納簿(現金出納帳)の月日欄、摘要欄、金額欄、差引残高欄
 ・支出証拠書類のうち、捜査費総括表の金額欄、捜査費支出伺、支払精算書、支払報告書、
捜査費交付書兼支払精算書、支出伝票、領収書
を非開示とした処分を、違法だとして争っている。

 論点はいくつかあるのであるが、今回の証人尋問において立証しようとしたのは、「捜査報
償費が本来の目的に使われておらず裏金として処理されていること」すなわち、捜査報償費は
現実には幹部の飲食費等に流れており、謝礼を支払った証拠としての領収書等は、実際には協
力者に支払われていないのに、支払われたかのように偽造された虚偽のものである、非開示処
分は、情報公開条例が認めた非開示処分の本来の目的を実現するためにのみ認められるべきも
のであり、本来の目的以外の目的のためになされた非開示処分は違法である、という点である。
3 大内顕さんは、『警視庁ウラ金担当』(講談社+α文庫)の著者で、実際に警視庁におい
て裏金づくりに携わった経験をお持ちであり、かつ、全国各地の都道府県警で同様のことが行
われているはずであることをお話しいただくべく、証言台に立っていただいた。

 県警側証人としてこちらが証人申請したのは、平成12年度・15年度警察本部交通指導課
及び少年課のそれぞれの課長だった。しかし結果として県警側が証人申請し採用されたのは、
平成15年度警察本部交通指導課課長代理であった森藤秀之氏であった(現職は高速道路交通
警察隊長)。県警側の説明としては、同氏が「突発的事件に対し捜査の陣頭指揮を執らなけれ
ばならないなどの理由から裁判所に出頭できなくなる可能性が低く、出頭確保が期待できる」
からとのこと。

4 尋問準備段階における裏話を若干披露する。
 証人尋問は、まず申請した側から行う主尋問、次に相手側から行われる反対尋問、最後に裁
判所が行う補充尋問、という順番で進んでいく。そして、申請した側から行う主尋問は、あら
かじめ答える内容を打ち合わせた上で行われる、いわば「デキレース」であるから、審理の時
間節約の意味もあって、本番で答える主な内容をまとめた「陳述書」の提出を事前に求められ
るのが通常である。そのため大内さんには、尋問日の他にも、わざわざ所沢から横浜までお越
しいただいた。さらに、尋問の前日にも東京での打ち合わせに応じていただいた。感謝!

 尋問に先立って、上記『警視庁ウラ金担当』を書証として提出することも考えたのであるが、
私が今回の尋問準備に当たって同書を再読したところ、本番で県警側証人に対し追及したら面
白いと思われる内容が散見され、事前に書証提出してしまうと対策が施されてしまうといけな
いと思い、提出はしなかった。
 また、事前の打ち合わせにおいて大内さんからは、『警視庁ウラ金担当』には書かれていな
い重要な情報を提供していただいた。
                     
  すなわち、本訴訟は神奈川県警本部長を相手取った訴訟であるから、「警視庁で裏金づくり
が行われていた」ことを立証するだけでは足りず、「全国各地の都道府県警で同様のことが行
われているはずである」ことが言えなければならない。この点について大内さんから「捜査費
には、国費が支給される部署と都費(県費)が支給される部署があり、都費が支給される部署
に関しては、東京都庁の出納監査があるが、その前に、警視庁の総務部会計課会計監査室によ
る定期監査(事前監査)がある。国費が支給される部署に関しては、会計検査院の実地検査が
あるが、その前に、警察庁の事前監査があり、さらにその前に、警視庁の事前監査がある。
 警視庁の事前監査とは、東京都庁の出納監査や会計検査院の実地検査において不正がばれな
いように書類を整えたり担当者が質問に答えられるように指導する場であり、警察庁の事前監
査も同様である(警察庁には、裏金の一部が上納金として回っている)。警察庁の事前監査は
全国各都道府県警に対し共通に行われているのであるから、警視庁に対し行われていることが、
神奈川県警に対し行われていないということはありえない」「県をまたいだ合同捜査本部が設
けられるような事件については、各都道府県警に対し支給される捜査費とは別に、合同捜査本
部用の捜査費が別途国費から支給される。警視庁と神奈川県警で合同捜査本部を設置する場合、
警視庁では捜査費が全て裏金で処理されているのに、神奈川県警では適正に執行されていると
したら、警視庁と神奈川県警の捜査員が共同で捜査協力者に会って話を聞く場合などに、扱い
が異なっては支障を来すことになる。そのような支障を来したという話は聞いたことがなく、
それはすなわち、各都道府県警の捜査費が全て裏金として運用されていることを示している」
という、貴重なお話を伺った。が、これらの点について「陳述書」に記載してしまうと、やは
り県警側に事前に対策を施され、県警側証人にいかにも辻褄の合う説明をされてしまうといけ
ないと考え、陳述書には記載せず、本番で大内さんに述べていただくこととした。

5 当日の尋問は、先に大内さん、次に森藤氏の順番で行われた。
 一般に、同じ日に複数の証人尋問が行われる場合、後の証人が前の証人の証言を聞いて参考
にしてはいけないので、後の証人は控え室で待たされ、前の証人の証言は聞けないことになっ
ている。が、途中で休廷時間が入って、代理人や傍聴人が休廷時間中に後の証人と打ち合わせ
を行っては意味がないので、私は「休廷を入れるとしても、その時間に森藤氏と代理人や傍聴
人が接触しないようにして欲しい」と釘を刺した(もっとも、いつも傍聴席には県警関係者が
10数人来ていて、当日も、大内さんの尋問が行われている最中に、県警関係者と思われる傍
聴人がしきりに法廷を出入りしていたので、ある程度は大内さんの証言内容が伝えられていた
のかも知れないが・・・)。

 で、大内さんの尋問であるが、主尋問にはほぼ打ち合わせどおりお答えいただき、また、県
警側反対尋問にも全く動じず、堂々としたお答えぶりであった。実は大内さんは、別の県警相
手の訴訟で証人申請されたことはあったが、実際に採用されたのは初めてとのことで、はじめ
の5〜10分くらいまで若干緊張されていた様子はあったものの、雰囲気が分かってからは、
ほぼ全般にわたって落ち着いた対応をされていた。もっとも、裁判所での証人採用は初めてと
しても、大内さんは警視庁時代、上記の警視庁会計監査室による事前監査に会計責任者ととも
に立ち会い、監査担当者からの追及に耐えてこられた経歴をお持ちの方である。それゆえ、法
廷での県警代理人の追及は、動じるほどのものではなかったと受け取られたのかも知れない
(大内さんとしても、警視庁時代の経験がこのような形で生かされるとは、予想もされなかっ
たこととは思うが)。
                             

6 次に、森藤氏の尋問。
 上記のように、県警側は森藤氏を証人に立てた理由として「出頭確保が期待できる」ことを
挙げていたのであるが、私としては、真の理由は実は別のところにあると考えていた。すなわ
ち本訴訟において、県警とすれば「捜査費が裏金に使われていることを立証されてはいけない」
のであり、組織の威信を賭けて、絶対に尻尾を捕まれないような人物を選び、かつ、十分に反
対尋問対策も練ってくると予想していたのである。ちなみに、我々弁護士が刑事事件の弁護人
を務める場合に、取調方法に違法があるとして争い、取調担当官を証人尋問することがある。
 その際、尋問された取調官は、水掛け論に持ち込める内容の質問に対しては徹頭徹尾嘘をつ
いて違法を隠し、記録上問題があると認めざるを得ない部分に関しては、それと矛盾しない範
囲で適当に言い訳をし、決して警察側に不利な証言はしないように振る舞う(以前、「警察見
張」番例会で、芳野直子弁護士の講演を聴かれた方はご存じですよね)。そういった意味で、
警察官は、我々弁護士にとって一番たちの悪い証人なのである。
 
 ところが予想に反し、森藤証人は、「それほどのタマ」ではなかった。同証人に対する追及
の主なものを2点ほど挙げる。
                 
 まず県警側は、準備書面において不開示を正当化する事由として「捜査費の個別執行状況に
関する情報は、捜査活動を費用面から表すものであり、これを事件ごとに一連のものとして時
系列で捉えれば、事件ごとの捜査体制、捜査方針、捜査手法、捜査の進展状況といった各種捜
査情報を反映している情報と見ることができ、これらの情報を公開すれば、当該事件捜査に係
る各種の情報が明らかとなり、捜査の手が及んでいることを察知した被疑者等の事件関係者が
逃亡、罪障隠滅等をするおそれがある。また、既に事件捜査が終了している場合であっても、
個別執行情報を収集することにより、これらの捜査手法等に応じて犯罪を敢行するなどの対抗
措置が講じられるおそれ、すなわち、捜査活動の裏をかくための措置の研究等がなされるおそ
れがある」という説明をしている。ところが、平成11年に流出した、平成8年度警視庁銃器
対策課の、国費捜査費の現金出納簿(別紙)を見ると、(薄くて見にくいが)日付の次に、抽
象的に「○○事件捜査費」、捜査員の肩書、捜査員の名前しか書かれていない。これでは、個
別の出費が具体的にどの事件の関係で支出されたかなど特定できないから、県警側の正当化事
由は成り立たない。
                  
 そこでこの点を森藤氏に質問したところ、神奈川県警でも現金出納簿への記載事項はおおよ
そ同じであることを認めたものの、「この程度の記載内容では、個別の事件の特定などできな
いではないか」との追及に対しては、「(一般的な質問なのに)捜査上の秘密で答えられない」
とか、「事件が特定されるおそれがある」など、弁解のための弁解としか到底受け取れない回
答に終始した。

 また、捜査費の受入額が毎月ほぼ一定で変わらない理由として「現在の持ち事件から考えて
翌月必要な捜査費がどのくらいかは予想できる」と回答したのに対し、「新しい事件が突発的
に起こって捜査費が必要となったときにはどうするのか」と追及したところ、「すぐに捜査費
が必要となるとは限らない」とか、また「支出を予定していた事件捜査を一旦中止する」と、
必要だから予算請求したこととは明らかに矛盾する回答をするなど、誰が聞いても滑稽な証言
内容で、傍聴人の失笑を買っていた(まあ、要するに、適正に執行したことなどないから答え
られないという、当然の結果なのだと思うが)。

7 ということで、行われた証人尋問に関しては、大内さんの尋問、森藤氏に対する反対尋問
ともに、一定の成果は得られたのではないかと思う(予想以上に)。

 次回期日は9月20日(水)午前10時30分に指定され、この期日には、証人尋問の評価
も含めた最終準備書面を提出する予定である。判決言渡予想は、恐らく年末か年明になるもの
と思われる。


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