元警視庁職員 大内 顕
今回、警視庁出身である私が、神奈川県警の不正経理について説得力ある証言をするため
には、「警察の不正経理は、警察庁が絡む全国共通の問題だ」という事実を裁判所に理解し
てもらわなければならないという点がポイントだった。
主尋問はスムーズに進んだ。警視庁勤務当時に私が受けた警視庁や警察庁の内部監査の実
態が不正隠しのための指導だったこと、そして複数の県で、まったく同じ手口による捜査報
償費の不正経理が行われている事実を重ね合わせれば、これは警視庁だけの問題ではなく、
当然神奈川も同じであろうと考えられることなどが、理論的に証言できたと思う。
反対尋問では、まさにその点を突いてきた。私が、自分自身が勤務していない部署の話や、
警視庁退職後に元同僚から聞いた話などを証言したことについて「それは伝聞ですよね」と、
何度も繰り返した。「伝聞」というのは文字どおり伝え聞くことであり、「偽造領収書を書
かされている本人が『俺は今でも書いている』と私に言った」という証言は、「伝聞」では
ないと思うのだが・・・・・・。
さらに相手側代理人は、私の証人としての適格性にも疑問を投げた。私が警視庁を退職し
た理由を「不倫」と報じた週刊誌の記事(誤報)を見つけ、「これは使える」と勇躍したの
だろう。「この記事は事実か」「不倫で処分されたことはあるか」などと、しつこく聞いて
きた。
この質問は、私自身がある程度予測していたことであり、「こんな質問が出るようだった
ら、相手もネタ切れだな」などと考えていたため、さほどの動揺はなかった。
傍聴席から見れば、私の証言よりも、むしろ次に証言した県警幹部の姿の方が、はるかに
興味深かっただろう。今回開示を求めている帳簿や証拠書類の一部を直接記帳・管理してい
た人物で、実直そうな警視である。
彼は、反対尋問でボロボロになった。鈴木弁護士の鋭い質問に、現職警視は、ときには硬
直し、ときには言葉を詰まらせ、最後には「その点については証言を控えさせていただきま
す」を連発し、裁判長にも「それは答えられるでしょう」と苦笑いされてしまった。
結論として、手前味噌で恐縮ではあるが、経験と取材だけに基づいた私の証言と、組織の
しがらみから不本意なウソをつかざるを得ない現職警視の証言には、おのずから差が出てし
まったというところだろう。
複数の県で捜査報償費の支出書類が内部から流出し、不正経理が発覚するのはなぜか。
それは何も発見できない監査・検査のあり方や、裏ガネにしがみつく警察幹部の姿に対す
る現場の怒りにほかならない。そのことを、ぜひ裁判所に理解してほしいものだ。
神奈川県警では捜査報償費を裏ガネにしていない(現実にはあり得ないが)としても、だ
から支出書類を公開しなくてもいいという理屈にはならないのも当然である。「支出書類」
は単なる経理上の書類であり、「公開すると捜査の進捗状況がわかってしまう」などと警察
が騒ぐような代物ではないからだ。
その意味で、「全面開示」に一歩でも近づくよう、司法の英断に期待したい。
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