トップ画面に戻る
(2008.10.29.)

* 警察見張番だより 28号

***** もくじ *****

● 裁判員裁判のウォーミングアップ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(佐久間哲雄)

● 警察の資料を読んで・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(大内 顕)

● 「警察見張り番」の総会に参加して                 
  • 市民が警察を見張るのがいい・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • 警察見張り番08年に参加して・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • 警察のニセ領収書会計を改め、前進を!・・・・・・・

(大津 八郎)

(田戸 俊秀)

(上田 義男)

● 仙波さん国賠訴訟・・県の敗訴確定!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(東 玲治)

● 廣津和郎先生命日の墓参に当って想ったこと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(石川 利夫)

● 編集後記

(生田典子)

トップ画面に戻る

目次へ :
● 裁判員裁判のウォーミングアップ

弁護士 佐久間 哲雄

 最近、続けて傷害致死事件の弁護をした。いずれも、被告人は、いわゆるドヤ街に住んで10年に なる初老の男であった。
 被告人のA男は、兄弟妹は立派な社会人なのに、彼だけは異質な存在であった。今回の事件につい て、一切親族には連絡しないでくれと言った。

 もう1人の被告人B男は、学問はいらないと言われて中学も卒業しないまま社会に出た。結婚した が、女房に逃げられ、独身生活を続けてきた男だった。

 傷害致死事件は、個々の事件の経緯はどうあろうとも、刑事事件としては重大事案である。 来年 の5月21日以降は、当然裁判員裁判の対象となる事件である。裁判員裁判に備えて、重大事案に ついて裁判員裁判での審理を想定した審理が、全国の地方裁判所で行われている。来年の本番に向け てのウォーミングアップである。

A男およびB男の事件も、裁判員裁判の手続に忠実に従って行われ た。裁判員裁判は、長くても3日間の連続審理で判決言い渡しを目指している。この3日間の審理を どう進めるかをめぐって、事前に裁判官、検察官及び弁護人の協議が行われることになっている。 裁判員の前で検察官及び弁護人は、それぞれ主張を展開し、証拠を提出するが、準備段階で確定さ れたところに従って行われる。審理が始まってしまえば、しまったと気が付いても、新たな主張や 証拠を出すことは原則としてできない。

 A男は、事件当時泥酔状態で肝心の事件自体の記憶が殆どなく、どれ位アルコールを飲んでいた かも定かでなかった。被害者は60才過ぎの女性で、これ又泥酔状態で酒を飲むと人が変わってし まうと言われている人だった。事件発生10分程前、被害者がA男に難癖をつけてからんでいたこ とは目撃者がいてはっきりしているが、事件のきっかけとなる直前に2人の間でどう云うことがあ ったのかは全く不明であった。

 B男の事件の被害者は、同じドヤ街に住む男で、B男からしばしば金を借りていた。事件前日返 済する約束を守らなかった。事件当日、ドヤ街近くの公園でB男は被害者と顔を合わせたところ、 被害者は黙っていて謝罪もしなかった。腹立たしくなったB男は、被害者を殴り倒し、その場を立 ち去った。被害者は、宿の居室へ戻ったが、死体となって発見されたという事案であった。犯行の 目撃者はおらず、B男の自白調書によるしかなかった。

 ところでB男は、弁護人の私に、50メートル程の近くに住んでいる知人への連絡を依頼し、地 図を書いてくれた。この地図は間違いだらけで使いものにならなかった。私は、B男の自白調書が どこまで信用できるか不安になった。

 A男については、犯行時にどの程度の判断能力が残っていたか疑問だった。B男については、そ の知能程度に疑問があった。精神鑑定が必要ではないかと思った。私は、鑑定の話を協議の場に出 してみたが、予想通り裁判官も検事も強く反対した。

 他方、予想される鑑定結果、又数ヶ月は覚悟しなければならない鑑定の期間等の問題が頭を横切 り、鑑定申請がA男、B男に有利なのか迷った。弁護人の私が鑑定を断固として求めれば、A男、 B男の審理は、数ヶ月先のことになる。鑑定の結果も彼らに有利なものになるとは限らない。結論 としては、鑑定申請は断念した。

 A男、B男共実質審理は1日で終了し、いずれも求刑の6割程度の予想外に軽い刑の云渡しで終 わった。

 法廷での闘いは、傍聴人がいる。裁判員裁判での裁判官、検察官及び弁護人の事前協議は、密室 の中の作業である。弁護人としては、傍聴人のいないところでの孤独な闘いになる。その意味で、 裁判員による審理の骨格を作る事前協議は、弁護人の識見、気力に左右されるところが大きいと実 感した。弁護人の責務は、一段と重いものになった


目次へ :
● 警察の資料を読んで

大内 顕

◎県議会に提出された資料を読んでみる

議会に提出される予算説明書は、国でも自治体でもほぼこのようなものですが、最大の特徴は「数字がどう 積み上がったのか分からない」ということです。各項目の「説明」欄で積算根拠を示していると、県警は言 い訳するでしょうが、この「説明」では何にいくらかかるのかが全く不明です。

たとえば、添付資料の1枚目の「警察本部費」ですが、警視庁の場合、ここの8番「報償費」に捜査報償費が 含まれます。神奈川も同じだと思いますが、3枚目の「一般活動費」の8番「報償費」に入っている可能性も ないとは言えません。ちなみに4枚目の「刑事警察費」の「説明」欄にある「捜査費」は、いわゆる捜査報 償費とは違い、身元不明の遺体を入れる棺桶などに使う予算です。

1枚目に戻りますが、一般的に考えて「捜査報償費」は「説明」欄の10番「表彰、ほう賞等関係費」の中に 入っていると考えられます。
しかし、この項目には、他に各種講師・通訳への謝礼など、さまざまなものがあり、その内訳がまったく 示されていませんから、それぞれが妥当かどうか判断する術はありません。

また、「節」の8番「報償費」の計上額228,533千円に対して、「説明」欄の10番「表彰、ほう賞等関係費」 の金額は171,804千円ですから、「報償費」は「表彰、ほう賞等関係費」以外にも使われているということ になり、わけがわかりません。
ちなみに「報償」は広く謝礼・ほうびの意味に使い、「ほう賞」は重大事件解決で県警本部長賞を出すな ど、警察内部への「ごほうび」の意味に使います。つまり「ほう賞」は「報償」の一部ということです。 このように、議会に提出される「予算に関する説明書」は分かったようで分からない形に作られます。 議会で細かい追及をさせないためです。

予算を使う部署が数字が積み上げられ、最終的にこの説明書ができ上がるまでの流れを説明しましょう。 「警察本部費」の「説明」欄の5番「電子計算組織運営費」を例にとります。

コンピュータシステムの担当部署は、事業に必要な経費を「節」ごとに分けて算出します。 たとえば「部品など消耗品の購入費(11需用費)」「コンピュータのメンテナンス経費(13委託料)」「既存 コンピュータのリース代(14使用料及び賃借料)」「コンピュータの新規購入費(18備品購入費)」というよ うに積算し、合計をその部署の事業予算として要求します。

県警本部の予算担当部署は、このように各担当部署から要求される予算を、説明書の「説明」欄には事業 の内容別に記載し、「節」欄には経費の性質(需用費や委託料など)別に記載します。
つまり「説明」欄は各部署から要求された総額が事業内容別に分けられたものであり、「節」欄は、それ が経費の性質別に分けられたものです。予算を要求する部署は数多いため、でき上がった予算説明書は 「節」欄と「説明」欄がまったくリンクせず、何にいくら使われるのかがアバウトでしか判明しない構造 となるのです。

予算積算のカラクリの詳細を市民が知るには、情報公開などで、この「予算説明書」を作るための下資料 を見るしかありません。これは県警本部の予算担当部署には必ずあり、また、なければ予算説明書を作成 できません。下資料では、各部署が要求した予算額の内訳や、対前年度比も分かるので、不自然な点など が見えてくるかもしれません。


目次へ :
     
● 「警察見張り番」の総会に参加して
◆ ◎市民が警察を見張るのがいい  (大津 八郎)

私は、日頃から警察の問題に関心を持っていました。警察と聞けば、われわれ庶民の生命財産を守り街の治安を 維持してくれるものだとイメージします。その警察が一部とは思いますが、犯罪に手を染め不正不法を働くのは 絶対に許されません。ましてや、それを組織をあげて隠蔽するなどとはあってはならないことです。それこそ国 民の警察の信頼を根底から失うことになります。

 先日、横浜で目当ての家がなかなか見つからず、交番の若いお巡りさんに道を尋ねました。そのお巡りさんは 丁寧な言葉使いで親切に教えてくれました。とても感じが良かったです。第一線の警官はよくやっていると思わ れます。それが患部、上層部や組織となるとどうでしょうか?ウラ金作り、闇社会との癒着、公金横領、犯罪の 隠蔽など、警察の不祥事は後を絶ちません。これらの事件の根本原因はどこにあるのでしょうか?私はそれが知 りたいです。

 管見によれば、日本の警察は外国に比べて、異常ともいえる階級社会、閉鎖社会になっていて身分的位階が徹 底していると考えられます。極端なエリートである一握りのキャリアがピラミッドの頂点に立っています。下か らや外部からの批判が届きにくい構造になっているように思えます。

 一般の警察官には団結権はなく、もちろん労働組合もありません。先進国の一部(例えばアメリカ、イギリス など)では、警察官のストライキ権を認めています。第一線の警察官の人権、身分保障を確立することが不祥事 を無くす土台になると考えます。

 日本の警察制度は、戦前の反省をふまえ「オイコラ警察」から民主警察としてスタートしたはずです。それが いつの間にか「自治体警察」が無くなり、中央集権的な「国家警察」に変身してしまいました。形だけは県警は 県公安委員会の指導管理下にありますが、その機能は形骸化していてチェックが十分働いていません。

 公安委員会の強化、見直しは緊急の課題となっています。公民の多くが日頃から警察の動きに関心を寄せ、声 を大にして警察の不法不正を皆に知らせ考えてもらうことが大切だと思います。 そういう観点からも、「警察見張番」の役割は、これからますます大きくなるとかんがえます。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

◆ ◎警察見張り番08年に参加して       (田戸 俊秀)

例会には殆ど参加できず、せめて総会だけはと思い、8月2日に開かれた警察見張り番08年総会に参加させて いただきました。

鈴木覚弁護士をはじめ、警察の不祥事、裏金などまさに警察「見張り番」を熱心に行なわれている弁護士の熱意 がひしひしと伝わり、特に各弁護士の「本業の弁護士活動よりこちらに使っている時間の方が多い」との話には 頭がさがる思いがしました。

警察の秘密主義が一向に改善されず、それがために税金の無駄遣いや様々な不祥事が発生していることを考えれ ば「見張り番活動」はますます重要性になってきていると思います。

私は国民救援会の事務局を務めていますが、救援会の立場から見てもエスカレートしている警察の法を無視した 横暴なやり方は許しがたいものがあります。
特に、最近は任意であるはずの「職務質問」とそれに伴う「荷物検査」が強権を持って行なわれ、中には職務質 問に続いて本署に連行して取調べまで行なうなどの違法行為まで行なわれています。

このような警察の横暴を監視することも警察見張り番の活動に位置づけていただければと思っております。

以上

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

◆ ◎警察のニセ領収書会計を改め、前進を!    (上田 義男)

2008年8月2日、「警察見張番」の総会で、青森県警察本部情報公開請求訴訟に関して講演があった。 その際に感じたことについて若干記す。

第1に、警察の領収書がニセなら、その会計報告もニセである。このことを国民が問題にしないとし たら、鈍感ではないか。
これは、虚偽の会計報告がなされたという、れっきとした犯罪である。そして、税金を払う国民は、 その使途についての虚偽の決算報告によって騙され、迷惑しているのである。
虚偽でも警察は正しいなどという理屈はない。それを正しいかどうか判断できるのは警察だけであり、 そんなにまで事実を曲げた警察でも信じろということになってしまう。会計報告は真実でなければな らない。

虚偽の報告は、戦争中の大本営発表で何度となく繰り返され、その結果がいかに悲惨なものだったか、 今の国民のうち何割かは経験した。しかし、その数はもはや全体の少数になってしまった。同じ間違 いを繰り返さないよう、真実を大切にしなければならない。そのためにも大本営発表の虚偽を語り継 がなければならないだろう。今の警察幹部が戦前戦中の警察行政を経験してその悪さを引き継いでい るとしたら、その悪弊を払拭しなければならない。

第2に、この訴訟で証人として出廷を頼まれた人が、法廷で質問に対し、知っているはずのことを知 らないなどと証言したことが報告されたが、このような証言は、虚偽を警察がまかり通していること にフタをしようとするものだ。
まことに法を尊ぶ気持ちの欠落以外の何物でもない。この虚偽は犯罪なのである。罪名は事例に即し ていろいろありうるだろう。それについて証言できるにもかかわらず、そうしないのは、犯人隠匿に もなる。それならそれも取り締まらなければなるまい。

第3に、警察が作っているニセ領収書の金額の費目の、かつては報償費とされていたものが、最近は 雑費として取り扱われるようになったという問題が指摘された。雑費でもニセはニセである。それが、 その通りの支出でないということには違いがない。
しかも、雑費とされたことにより、その支出の真偽がわかりにくくなるという懸念がある。これが虚 偽を隠すための手段だとすれば、報償費として取り扱うより罪が重い。領収書の虚偽は、報償費でも 雑費でも同じであり、それに屈することなく、真実による警察行政を求めていく「警察見張番」の奮 闘が期待される。

しかし、警察の不正は、ニセ領収書づくりだけではない。この問題を早く解決し、再発防止の手段を 講じ、ほかの問題の解決を図っていくことが求められている。「警察見張番」は、警察の不善悪事を 正す役割がある。単に情報公開を求めるだけなのではない。このような課題について以下に述べたい。

警察情報の公開さえ道半ばである。公開は、全部なされるのが当然である。国民の税金によるものが 対象だからである。しかし、便法として、アメリカ合衆国のように、非公開を何年か経て公開すると いう、時間的猶予などはありうる。それでも、その猶予期間が余り長いのは良くない。その間に情報 が必要な人が亡くなるかもしれないからである。

さらに、警察には虚偽会計のほかにも、たとえば証拠もないのに逮捕すること、令状もないのに家宅 捜索することなどの危険は常に存在する。このようなことから国民を守るために、警察以外の「警察 見張番」のような団体が必要なことは、今や論を待たない。

問題はその資金力であろう。ほかから資金を得るにしても、金を出されると、どうしても人間は、そ の出元に対して気掛かりが生じやすい。この心理を考えたら、法的に金の出の方にも入りの方にも、 この気掛かりに従ってはいけないことを厳しく規定しておかなければおさまらないであろう。その上 で、寄付金などによる資金を、いわば赤十字社のような具合に元手にしないと、安心できないのでは ないか。それが「警察見張番」という、人権を守る団体に求められている。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


目次へ :
● 仙波さんの国賠訴訟・・県の敗訴決定!

東 玲治

―――高裁判決・内容では大きく後退・裏金に触れず―――
         仙波さんを支える会

すでに報道でご存知の方も多いと思いますが、愛媛県警の裏金問題を告発し、配転処分を受けた鉄道警 察隊の仙波敏郎巡査部長(59)が、これを違法として争ってきた国賠訴訟で、高松高裁は9月30日、 松山地裁判決を不服として控訴した被告・県の請求を退け、地裁判決どおり100万円の賠償を命じま した。

県警は県議会・警察委員会で上告断念を表明、この問題を県警に任せっぱなしにしてきた知事・ 加戸守行も判決受け入ることを明らかにし、この裁判は3年9ヶ月をかけ、ようやく決着しました。 仙波君と私は「警察見張り番」の皆さんのお招きを受け、何度かお話をさせていただきましたが、この 勝訴は、そのような形で全国の皆さんからいただいたご支援の賜物だと思います。改めて、御礼申し上 げます。

ところで、高裁判決はこの訴訟の中心的な争点となった「配転」について、「配転先のポストは新設す る緊急の必要があるとは認めがたいほか、被控訴人(仙波)の経歴ともほとんど無縁で、適任とは考え 難く、あえて(告発会見直後という)この時期に、意に反してまでも行うことの必要性や合理性は見当 たらない。

職務上ないし人事上の必要性や合理性とは全く無関係に、告発記者会見に端を発してなされ たというほかない」としたものの、配転の権限については「同一所属内の配置換えについては所属長 (直属上司の地域課長を指す)が行うという実態ないし慣行があり、県警本部長の有する任命権のうち 所属内の配置換えは所属長に包括的に委任されていた」とし、上司の地域課長の権限による配転であっ たと述べ、配転の意図については「捜査費等不正支出問題に対する県警側の組織的対応とは別の行動を 取った被控訴人(仙波)に対する嫌がらせないし見せしめのため」と推認され、明らかに社会通念上著 しく妥当性を欠き、違法であるとしています。

画期的といわれた松山地裁判決は、配転の権限やその意図についてはこう述べています。 「上司・課長の配置換えの権限は県警本部長の権限の一部を委任されたものだが、配転先の係新設は本 部長権限に属することなどに照らせば、課長の権限にのみ基づいて行われたということは到底ありえな いことで、県警本部長が関与したことを否定することはできない」と県警本部長の関与を認め、配転の 意図、狙いについては「現職の警察官である原告(仙波さん)により行われた警察内部で裏金作りが行 われていたことを内容とする記者会見直後になされたものであり、内部からの造反に対して、いわゆる 報復として行なわれたと推認される」と。

仙波さんを「捜査費等不正支出問題に対する県警側の組織的対応とは別の行動を取った警察官」(高裁 判決)と見るか「警察内部で裏金作りが行われていたことを内容とする告発者」(地裁判決)と見るか、 また、その意図についても、「上司による嫌がらせないし見せしめ」(同上)と見るか「本部長も関与 した内部造反者への組織の報復」(同上)と見るか、その差はあまりにも大きいと思います。どちらが、 我々の腑におちるかは改めていうまでもないと思います。高裁判決は明らかに後退しています。

この判断について弁護団は、証人調べ(尋問)を実際に行い、仙波さんの圧倒的な存在感を感じ取った 地裁裁判官と、証人調べを行わず、地裁の記録を基に判断した裁判官との心証形成の「差」だと指摘し ています。が私は個人的には、その域をはるかに越えた「権威なき権威主義」の表れ、体制の一部とな ってしまっている職業裁判官の社会性のなさ、体制への迎合を見逃すことはできないと思っています。

地裁判決は高裁判決が触れることを避けた告発の背景事情について「(記者会見で仙波さんが語った内 容については)容易に否定できない」と明確に指摘しています。これは、警察の不正行為、犯罪行為に ついてはしかるべき機関が調査、解明することを促しているのだと思います。そう考えればこの指摘は 極めて重要です。

誰がそれを行うべきかは、言うまでもありません。その責任は、公金支出の最終責任者である知事や、 行政執行をチェックする都道府県議会が負うべきものです。実際の調査、解明作業は専門的知識を有す る都道府県監査委員に任せなければなりませんが、知事や議会が強く求めなければ、実効ある監査は行 われません。 愛媛県では、警察裏金問題の内、捜査協力者謝礼金についての監査が、世論の批判を受けて知事がシブ シブと特別監査を命じて1度、我々の住民監査請求を受けて2度、都合3度行われていますが、知事も 議会も不正の解明の熱意を示さなかったため、適当にお茶を濁すような監査が行われたに過ぎません。

政治家ほど厚かましくない監査委員は、さすがに「何の問題もなかった」とは言わず、いずれの監査に おいても「県警が謝礼を誰に支払ったのかを示す書類を開示しなかったため、最終的な確認はできなか った」と、報告書で述べています。ところが、知事も県議会も、この不十分な監査結果を了としてきま した。全く無責任なことです。

監査委員は、知事と議会によって選ばれるため、そして多くの場合、監査を指揮する代表監査委員には、 ついこの間まで知事の部下であった退職県幹部など、知事の意向に動かされやすい人物が当てられるた め、このようなブザマな監査になってしまうのです。

判決にあわせて「支える会」は、県議会に対し、裁判の早期終結と同時に、「疑惑の徹底調査と責任の 明確化」などを求める請願書を提出しました。上告断念で「早期終結」は実現しましたが、調査につい ては「県警がすでに何度も内部調査を行ない、不正はないという結論が出ている」という自民党の、議 長も経験した古株議員の一声で≪請願不採択≫が決まりました。

監査委員が、謝礼金の支払いを最終確認できなかったと言っているにもかかわらず、監査対象の県警の 主張に与してしまう与党議員のこの図々しさに呆れてしまいます。彼らは我々の知らないところで、警 察に良からぬ借りを作っているに違いありません。

どうしようもない知事や議員のお尻を世論が思いっきり蹴飛ばしてやるしかありません。民主主義を形 骸化させてはなりません。結局、そのツケは私たちに回ってくるのですから。


目次へ :
● 廣津和郎先生命日の墓参に当って想ったこと

石川 利夫

<墓参>
去る9月21日は、松川事件で論陣をはって活躍された故廣津和郎先生が亡くなった命日(1968年9月21日) にあたり、今年も谷中の墓参があり、東京中心に近県の方々約30人が集まりました。お参りの後、鶯谷の「笹の 雪」で懇親会がありました。

懇親会では、本田 昇さんが持参した廣津先生の写真が上座に飾られ、遺産の監理人をしている増本弁護士から、 今日までの経過報告がありました。今後、谷中の墓地の監理にあたる「神奈川近代文学館」の方からも報告があり ご持参のビデオを見せていただきました。廣津先生の生涯を描いたものです。
 福島大学にある「松川資料室」の伊部正之先生の話もうかがうことができました。来年は「松川事件」が起きて、 60年にあたります。廣津先生の没年は67歳でした。

<私の思い出>
 廣津先生は、戦争中には執筆できずにいたそうです。「散文精神」を説き、戦争に協力しなかったごく少数の作 家でした。私たち「松川」の仲間達の間では、「散文精神」を論じたものでした。先生は、「松川」が終わると、 青梅事件、八海事件と手をのばされました。その頃私は山口に居て「八海」の現地調査に参加し、廣津先生にお会 いしたことがありました。まだ大内昭三さんが廣島の救援会にいらした頃です。当時廣津先生が八海事件に関わり 始めた頃でした。
 廣津先生の名刺を所望した方がいました。すると先生の名刺には名前だけが中央にあり、住所も肩書きもないの で驚いていました。

 その後の現調だったかと思いますが、私は「八海」の阿藤さん達と、山口市仁保の一家6人殺し事件の岡部さん あての救援ハガキを求めました。そのハガキを出したら、獄中の岡部さんからすぐにお返事がきました。それが私 の「仁保事件」との関わりの始まりでした。
 その頃に、「八海」も廣島高裁にかかって、後回しになっていた「仁保」の現場に、高裁が調査に来た時に、村 の人達が岡部被告を励ましているのを新聞で読み、当時は不思議に思っていましたが、地裁の頃に、村の古老達が 毎回裁判傍聴の都度、山口と仁保との一駅の間と、仁保駅からの道を歩きながらの話し合いの中で、村では「岡部 無罪の世論」をつくりだしていました。裁判所の有罪判決と違っていたのです。二審の高橋裁判長が最高裁の差戻 し判決をきいた時に、「これでよかった」と言ったそうです。おそらく二審では少数意見で、心ならずも岡部有罪 の判決を下したのでしょう。

 戦後の裁判民主化の上での「松川」と「白鳥」両事件の果たした役割は大きいものでした。その先頭に立ったの が、作家廣津先生でした。

逆流の激しい中で明年5月、「裁判員制度」発足を目前にした今日、廣津先生への思いは更に強くなっています。
「日本を道理の通る国にしたい」ものです。

****************

註@松川事件
 1949(昭和24年)8月17日未明、東北本線で起きた列車転覆事件。近くの東芝工場労組員と国鉄労組員 各10名(計20名)が、逮捕された事件。最高裁が1959年8月10日、仙台高裁に差戻し判決。1961年 8月8日、仙台高裁は全員無罪判決。1963年9月12日最上告審で全員無罪判決。

 ついで国家賠償請求裁判をおこし、これに対し1970年に、一審・二審とも勝訴。国は上告断念、確定。

註A廣津和郎
 明治24年(1891)〜昭和43年(1968)作家・評論家。昭和28年宇野浩二と共に仙台高裁で二審を 傍聴。昭和29年4月から中央公論に二審判決批判を連載。依頼松川事件と取り組む。

註B本田 昇さん、大内昭三さん、
いずれも松川事件の元被告。全員無罪。

註C八海事件
 1951年山口県熊毛郡麻郷村八海で夫婦が殺害され金銭が奪われた事件。被告人5人のうち4人が第三次最高 裁で無罪になった。(1968年)


目次へ :
     
● 編集後記
 今年の私たち「警察見張番」にとってのビッグニュースは、何と言っても、愛媛県警の仙波敏郎さんが県に対して 慰謝料を求めた訴訟の控訴審で、勝訴したことです。10月1日の朝日新聞に、「告発警官、二審も勝訴」という大 きな見出しがあるのを見て、思わず「やったあ!」と大声を上げてしまいました。

 すぐ仙波さんを支える会の代表である東さんにお祝いのメールを送りました。新聞に載った仙波さんの写真には、 喜びがあふれ出ていましたね。

詳しくは、本号のP5〜6に仙波さんを支える会の代表である東 玲治さんの報告を載せてあります。読んでくださ い。また、資料として添付した新聞記事を読んでください。

・・・と、編集後記を書いている最中に、「東 玲治さんが突然亡くなりました」という信じられないメールが入り ました。いきなり頭を殴られた感じで、しばらくぼう〜っとしていました。何だか意味が分からない状態でした。

しかし、更に詳しいメールが入ってきてからは、ショックが大きく、胸が苦しくなってきました。
それでもまだ私は納得できないでいます。お体が悪かったとは伺っていませんでした。まだ59歳という働き盛りで す。運命と言うには酷すぎます。

葬儀は25日松山市で行われましたが、伺うことが出来ませんでしたので、「警察見張番」として弔電を打ちました。 合掌。

         ◇◆◆◇ 

最近は、時がとても早く動く感じがしてなりません。大きな事件が次々とマスメディアを通して知らされ、意識や記 憶までもがめまぐるしく動かされているように感じます。

 石川さんから投稿された原稿を入力しながら、そう言えばそんな事件もあったなぁ、と薄れていく記憶に反省をし ました。そういう観点からも、後世に伝えなければならない過去の出来事を、私たちは記録に残していくことが重要 ですね。時の権力者とは異なった視点・市民の視点からの記録を残していくことは、今を生きている私たちの責務で はないかと強く思いながら、警察見張番28号を編集しました。

  皆さまのご感想をお寄せください。              

(生田典子)


目次へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送