警察見張番だより 第32号
(2010.03.13.)

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***32号もくじ***
● 情報公開訴訟の裁判を傍聴して! ・・・・・・・ 大河原宗平
● 小さな事のようだが見過ごせない不快 ・・・・・・・ 間瀬 辰男

● 証人尋問から見えるムラ組織 ・・・・・・・ 木村 幸造

● 神奈川県警不正経理問題
    ・・・・・信頼回復のチャンス
・・・・・・・ 中村 おさむ

● 足利事件に思う ・・・・・・・ 大森 猛

● 惜 別  ◆「弁護士佐久間さんを偲んで」
          ◆ 佐久間先生のこと
         ◆ 佐久間先生を偲んで 
・・・本郷 敏子
・・・K.M.
・・・K.Y.生 
● 編集後記 ・・・・・ 生田典子


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 ● 情報公開訴訟の裁判を傍聴して!

(大河原宗平)

★神奈川県警察本部鑑識課の平成18年度捜査諸雑費に関する「情報公開訴訟」裁判傍聴の感想

群馬県警に対して
@懲戒免職の取消と
Aでっち上げ逮捕などに対する損害賠償請求裁判中の群馬県警警部補(免職当時)
◇はじめに

2010年1月18日午後1時30分から横浜地裁で開かれた神奈川県警本部鑑識課の 平成18年度捜査諸雑費に関する「情報公開訴訟」の証人尋問裁判を傍聴しました。私 も1982(昭和57年)年3月から1年間群馬県前橋警察署で鑑識係長(警部補)を 経験していますので、今回の鑑識課長代理の証言には大変興味があり是非傍聴したいと 思っておりました。その感想を以下のとおり報告します。

  なお、私は鑑識係長当時、名目の如何を問わず職務上「公金」を支出した経験が一度も 無いことを冒頭に申し上げたいと思います。

◇出廷した証人の第一印象

この日は同課の課長代理だという現役「警視(多分)」が証言台に立ちました。頭髪を 短く刈り込んで一見垢抜けしない印象でしたが、尋問が始まると丸暗記してきた「捜査 諸雑費や取扱担当者などの定義」について一気に吐き出しました。 私は傍聴席で「よ く出来ました」と声に出せない声援を送ると同時に苦笑してしまい、裁判長からアイコ ンタクトを貰ってしまいました。これぞ、神奈川県警が自信をもって出廷させた証人で した。正に上司の命令に忠実に従い、昇任試験でも模範答案を一字一句間違わずに転記 できるほど優秀な暗記力を持った「警察のための警察官像」を見たような気がしました。

◎県警本部の鑑識課員が出動する場合の流れ
私は前記のとおり警察署の鑑識係長を経験しました。群馬県警の場合、事件が発生して 被害者などが110番で通報すれば、無線で所轄警察署に事件の発生が伝達されます。 そのほかにも、被害者や目撃者らが直接警察署に電話をしたり、交番などに駆け込むな りしますから、事件の発生を認知するのは所轄の警察署なのです。県警本部の鑑識課が 所轄警察署をさしおいて現場に出動することは全くありません。

例えば、殺人事件など の大事件でも、所轄警察署から、県警本部の主管課(殺人事件であれば捜査一課など) に事件の発生とそれまでに行った初動捜査などの報告を行い、同時に必要と判断されれ ば「県警本部鑑識課員の出動を要請する」のです。これが県警本部の鑑識課員に出動要 請が入る流れです。神奈川県警においても同様であると思います。

神奈川の市民団体「警察見張番」が起こした裁判の証人尋問で、証人は「見張番」の弁 護士から「鑑識課員が出動する手続き」について尋問された時、「主管課の要請に基づ いて出動する」と明言しました。私の経験と同じでした。

◎支払先を明らかにしない捜査諸雑費
証人は、尋問に対して概ねこう証言しました。「県警本部の鑑識課員が犯罪現場に出動 し、写真撮影をしたり指紋や資料を採取して事件を立証する。その際、協力してもらう 立会人、被害者、目撃者、その他第三者に捜査諸雑費を支払う」と。

 その上で次のようにも証言しました。「支払先である立会人や被害者などの協力者の 氏名を明らかにすると、これらの者に危害が及ぶ恐れが発生し、今後の協力が得られな くなり事件の立証が出来なくなる」と。

私は警察の不正経理を追及する裁判で、いつも不思議だと思うのですが、警察が行う捜 査は「犯人を捕まえて裁判にかけて有罪にする」ための捜査であるといっても間違いで はないでしょう。その上で捜査の過程で作成された捜査書類は「必ず公開法廷に出され る」のです。そうであれば、捜査に協力した人々の氏名はそれほど遠くない時期に法廷 で明らかになるのです。

警察は犯人を捕まえて検察が起訴して証拠書類が裁判に出され る時には捜査段階で協力してもらった人々の安全や秘密を守らなくて良いというのでし ょうか。事件が発生して捜査に協力した人は裁判で名前が出されることなど全く知 らないでしょうが、それでも警察には協力してくれます。しかし残念ながら、そのよう な方に捜査諸雑費で謝礼など支払うことは無いのです。それでも「支払う」と言う証言 は全く世間の常識とはかけ離れたデタラメな証言でした。

◎県警本部の鑑識課員は・・「応援派遣の身分」です
県警本部の鑑識課員が現場に出動して「指紋や足跡の採取」、「写真撮影」、「その他 証拠品の採取」などを行う全ての活動は、必ず報告書で所轄警察署長宛に提出します。
この報告書に県警本部鑑識課員は、

「○○警察署に応援派遣を命じられた
神奈川県警警察本部刑事部鑑識課
司法警察員 (階級) (氏 名) 印」
と書きます。

この報告書こそが鑑識課員の身分が所轄警察署長の指揮下であることを証明しています。 被告神奈川県警の代理人弁護士も刑事弁護をしているのでしょうからこのように書かれ ていることは十分承知されていることと思います。ですから捜査諸雑費も当然所轄署に 配分されている予算から支払われるべきです。県警本部鑑識課員が県警本部鑑識課の予 算で謝礼を支払うことなど有り得ません。もしも支払ったとしても所轄署の予算なので す。全く理解できない答弁でした。

◎捜査諸雑費で駐車場代も支払う?
証人は神奈川の「警察見張番」弁護士の尋問に「県警本部の鑑識課員が現場に出動する 手続きは主管課の要請に基づいて出動する」と証言したことは前述のとおりです。その 上で、概ねこう証言しました。「秘匿して現場に入らなければならない場合も有るので 鑑識車両を離れた有料駐車場に駐車することがありその際には捜査諸雑費から駐車代金 を支出する」

国民の多くが経験しているとおり、事件が発生すれば先ず白黒のパトカーがサイレンを 鳴らして現場に急行し、立ち入り禁止区域を設定、次に所轄の刑事連中が「覆面パトカ ーに赤灯を乗せてサイレンを鳴らして格好良く現場に乗り付け、その後から鑑識課の資 材を積んだマイクロ型やステーションワゴンタイプの「鑑識車両」が到着するのです。 私の経験では、県警本部鑑識課の鑑識車両が単独で犯罪現場の近くに車両を隠して駐車 して現場に入り込むことなど聞いたことがありません。

県警本部の鑑識課員が単独で現場に入ることはないのです。尋問で「有料駐車場代金の 支払いの不自然さ」に及ぶと、証人は概略こう証言しました。「鑑識課員の動きを犯人 などに知られないように遠くの有料駐車場を使用する場合も有る」と。

ちょっと前までの、「主管課の要請で現場に出動する」という発言と大きく食い違って いました。鑑識車両を有料駐車場に停めるのは、鑑識課員が鑑識車両を私的な用事の 「買い物」にでも使ったために駐車場所を明らかに出来ないというのが本音でしょう、 と思いました。

◎苦しくなると「非開示情報である」を連発
見張番弁護士の尋問が「事件名や捜査員の氏名」に及ぶと「その部分は非開示情報であ る」を繰り返していました。この裁判の目的は、「非開示となっている部分を開示せよ」 というものです。証人は尋問前の宣誓で「何事も隠さず・・・」と証言したのではない でしょうか。こんな答弁を見逃している裁判官にも不審を抱かずにはいられませんでし た。

◎おわりに
尋問の最後に裁判官からの質問もありました。
裁判官は証人に「警部補以下の警察官の氏名は公開していないですね?」「人事異動で も警部補以下の職員の氏名は公表していないですね?」と質問しました。証人は裁判官 から助け舟が出たとでも思ったのでしょうか。得意そうに「そうです」と応えていまし た。これも不思議な話です。警察は警察に都合の良い時だけは警部補以下の職員の氏名 も公表してマスコミなどに発表しています。本尋問は1月18日でした。神奈川県警の 鑑識課長代理は、2週間ほど前に行われた恒例の「大学対抗の箱根駅伝警備」を忘れて しまったのでしょうか?担当部署が違うから知らないのでしょうか?駅伝を先導する白 バイ隊員の氏名、年齢や白バイ乗務の経歴、先導の心得までがテレビで紹介されている ことを。私にはこの裁判官の質問が「この証人のウソつきをこの場で私がダメ押しして やる」との思いで質問されたものだと感じました。この裁判で裁判官は、きっと「見張 番」の請求どおりに「非開示部分を開示せよ」という判決を書いてくれると確信した尋 問でした。


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● 小さな事のようだが見過ごせない不快

間瀬 辰男

我が母が教え賜いし言葉「一事が万事」

 捜査費情報公開裁判での、県警職員の「非公開としたものだから答えられない」という 証言が今もって引っかかっている。何故公開できないかが争点であり、公開できない理由 を聞いているのに、「非公開」という結論を理由にしている完全な循環論法であるからで ある。循環論法とは結論を理由にした論法をいう。何故いけないかというと、結論を理由 にしていては「そうなっているから、そうなのだ」「なぜ、そうなの」という永遠の循環 になるからである。だから、理由が因果関係を明確にするものでないものは、どこかにお かしいところがある。だから、小生は小さな事こそ見過ごすべきでないと考えている。

◎県警への小生の問い合わせ文

神奈川県警察本部 生活安全対策室 殿  10.1.19

 小生は、横浜市との応答で以下の回答を得たので、横浜市の指示に従い問合せしますの で、回答されたい。

[横浜市への問合せ]

市長殿    10.1.4
ごみ収集車の街頭宣伝について
 ごみ収集車が、「犯罪者が近付かない、安全な町にしましょう」と街頭宣伝しているが、 言っていることの意味が不明である。

  1. 「犯罪者が近付かない」という場合の、犯罪者とは、どういう者を指し、識別は可能な のか。
  2. 「安全な町にしましょう」という場合の、安全な町と言えるための要件は多々あると思 われるが、「犯罪者が近付かない」ことと、どのような因果関係にあるか。
  3.  意味不明なことを、街頭宣伝されることは極めて不快であり、住みよい街の条件の一 つで「静穏」を害すると思わないか。

    間瀬 辰男
    〒244−0816
    横浜市戸塚区上倉田町2044−30

                ・・・・・・・・・・・・

    「横浜市の回答」

    間瀬 辰男 様
     このたびは、「市民からの提案」をいただき、ありがとうございます。
     ごみ収集車による地域防犯に関するアナウンスですが、横浜市では、平成15年11月 に神奈川県警と「地域安全に関する協定」を締結しており、この協定に基づき、日ごろ地 域を巡回するごみ収集車を地域防犯に役立てようと、犯罪への注意を呼びかける取り組み を行っております。

     ご不明な点がございましたら、神奈川県警生活安全対策室(電話:211−1212 (代表))へお問合せいただきますようお願いいたします。

    平成22年1月18日
         横浜市資源循環局業務課長 落合 昇
     (業務課 電話:045-671-3815)
    (市民からの提案第21-250227-1号)

       ・・・・・・・・・・・・・・・・

    「県警の回答文」

    間瀬辰男様
    お問い合わせいただきました件につきまして、回答させていただきます。
     横浜市資源循環局のごみ収集車による広報活動は、横浜市資源循環局の回答のとおり、 平成15年11月に神奈川県警察が横浜市(環境事業局(当時))との間で締結した「地域安 全に関する協定」に基づき、実施しているものであります。

     防犯広報の内容につきましては、県警察と横浜市が協議の上、決定しておりますが、車 両による広報でありますことから、“聞き取り易くということを前提として、平易かつ短 文で表現しております。

     広報の文言につきましては、「横浜市と神奈川県警察からのお願いです。子どもたちの 安全を守るため、市民の皆さんの見守りが大きな力となります。登下校時の通学路、人通 りの少ない道や公園など、地域の子どもたちへの心配りをお願いいたします。地域の力を 結束し、子どもたちを見守り、犯罪者が近付かない安全な街にしましょう。」

    というものであり、ごみの収集作業中に、ごみの分別方法や横浜市からのお知らせ、交通 事故防止の注意喚起等とともに、録音したものを繰り返し広報しているものと承知してお ります。

     お問い合わせの一つであります「犯罪者」につきましては、罪を犯した者のほか、広い 意味で、罪を犯そうとしている者も含んだ表現として使用しております。

     また、当該広報は、子どもたらが犯罪被害に遭わないように、地域住民の方々による見 守りをお願いしているものですが、後段の「犯罪者が近付かない安全な街にしましょう。 」につきましては、地域における犯罪を未然に防止するためには、罪を犯そうとしている 者が、当該地域において罪を犯しにくい環境を醸成することが重要と考えており、そのた めの方策の一つとしまして、地域住民の方々に犯罪防止に関する意識を高めていただくこ とを目的とした表現とご理解いただければ幸いです。

     ごみ収乗車による広報活動にありましては、犯罪の被害を1件でも減らせることができ ればという思いで実施しておりますので、ご理解、ご協力を賜りますようよろしくお願い いたします。

    平成22年2月10目
    神奈川県警察本部生活安全対策室長 西方 昭典
     (防犯対策班:045(211)1212 内線(3041)

       ・・・・・・・・・・・・・・・・

    @県警回答に対する小生の不審
    @横浜市の回答との明白なズレ
     横浜市は、「アナウンスの内容につきましては、神奈川県警察の所轄事項となりますの で、所轄の神奈川県警生活安全室の相談窓口に詳しい状況等をお話しされるのが、解決に 向けての最善の方法と考えます。」としているのに、県警は「防犯広報の内容につきまし ては、県警察と横浜市が協議の上、決定しております」と明らかな違いがある。無責任を 表出していると言えよう。

    A「犯罪者」という言葉は軽々に使われるべきでない
    「犯罪者」という言葉を「広い意味で、罪を犯そうとしている者も含んだ表現として使用 しております」と独善的な使い方を意に介してない。虞犯者と犯罪者を同一視するのは極 めて危険な思想と言うべきである。そもそも、こういう間違いは、犯行の態様によりアプ ローチすべきことを、人の問題としてアプローチしたことに起因する誤りであるのに反省 の色も無い。

    B「罪を犯そうとしている者」を認知できるか
    「罪を犯そうとしている者」を認知することができるであろうか、その方法を教えてもら いたいものである。できないことを、さもできるかの如く言って歩くことは全く無意味な ことである。無意味なことを言って歩くのは、騒音に過ぎない。静穏な環境を破壊する行 為である。

    C「生活安全対策室」の職務は何か
    「生活安全対策室」の職務は、実現可能な対策を策定し、自ら実行することではないか。 それを自らはすることなく、市民にさせようとする意図は職場放棄に他ならない。民が官 を使っているのであり、官が民を使うのは主客転倒の危険な状態である。

     人を見たら犯罪者と思えというような「不寛容な社会」は息苦しい。人々が息苦しい気 分で生活することなく過ごせる社会を展望した対策を考えることこそ職務ではないか。

    以上


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● 証人尋問から見えるムラ組織

木村 幸造 

 1月18日、情報公開訴訟での証人尋問は、当時の鑑識課長が退職しているとして 課長代理が法廷に出てきて証言した。

 鑑識課の車両駐車料金の支出についての情報公開尋問についても、「非公開になっ ているので証言を差し控えたい」の答え一辺倒であった。
 これが市民に対する公務員の態度かと、警察のムラ組織はいつまでつづくのかと、 あらためて違和感をもたされた。

◎政権交代後の中井国家公安委員長
 3日後の21日テレビで、これまでの自公政権から変わって新しい民主党の中井国 家公安委員長の仕事ぶりが放映された。

 中井氏は、これまで国・都道府県の公安委員は、各警察で推薦した者がなり、事務 局も警察組織が受け持っている現状から、「これからは国民・県民の代表がチェック できるようにする」と述べていた。  同時に、これまで警察の裏金問題を告発してきた北海道の原田元釧路方面部長と、 愛媛県の仙波元巡査部長を登場させた。

 中井国家公安委員長の記者会見では、これまで裏金など野放しにされてきた警察全 体を監理監督していくため、「警察自らしょりする内部告発を求める」というような ことが言われていた。

◎神奈川県警も裏金14億円
 2月6日の朝日新聞に、「神奈川県警裏金14億円、業者にプール」と不正経理の 記事が出ていた。ばれる前に小出しに出した方がよいということからだとすると、相 変わらずムラ組織は変わっていないとしか思えない。

しかし、警察官の不祥事やもっと早く事件に取り組んでいたら、こんなことにならな かったと思う。こんな報道が多く出るこの頃、警察の市民から離れた「ムラ組織」に あることを、警察は気がつかなければならない時期に、もう来ている!


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●神奈川県警不正経理問題
     ・・・信頼回復のチャンス/b>

(中村おさむ)

2月6日、新聞各紙が突然、神奈川県警の不正経理問題を報道した。この間、ごく最近 では千葉県など、県庁各部の不正経理が暴かれ、知事が記者会見を開き頭を下げるとい うことが繰り返されてきたが、今回のは神奈川県全体の不正経理を調べる一環として行 われた結果を発表したもので、警察「裏金」問題をこういう形で「小出し」にし、県庁 の他部門の不正経理と交ぜて発表することによって、県民・国民の警察への批判、不信 を薄めようとしたものではないか、と考えるのは「邪推」だろうか。

         報道によれば、2月5日に開かれた県議会の防災・警察常任委員会調査会の冒頭、渡辺 巧県警本部長が謝罪した。それによると県警本部の48部署と54の警察署、計102 部署で5685件の不正経理が発見され、その額は6年間で14億3千万円ということ である。つまり「裏金」ということなのだろうが、警察もマスコミも「裏金」という言 葉はつかっていない。

          方法は「預け」といわれるもので業者に架空発注をして現金を渡し、それをプールして おく。この預け金の一部をビール券などで受け取っているものもあるが、私的流用は確 認されていないという。「預け」以外では契約と時期が前後にずれるケース、契約内容 と違う物品を納入させる「差し替え」というケースがある。この場合、ケースというよ り「手口」と言ったほうがいい。

県警は「誰がなんのためにやったかは調査しないのでくわしいことはわからない」「会 計担当者がやったことで組織的なものではない」などといい、「所属長は関与していな い、所属長から事情を聞く予定はない」、という。

しかし県警のほぼ全部署でやっているのだから、組織的じゃない、といっても説得力はな い。いづれにしても県民が納めた税金がどう使われているのか、という問題であり、詐 欺、公文書偽造、公金横領などいくつもの犯罪が成立するネタであろう。

犯罪を取り締まるべき警察だからいいかげんな調査で済ませるわけにはいかない。不正 経理にかかわった人間の処罰、関係した業者とプールした金の使い道の公表など、再発 防止のための施策をはっきりしてもらわなければ県警を信頼するわけにはいかないだろ う。地に落ちている県警への県民の信頼を回復する絶好のチャンスとして、張り切って 自浄能力を発揮することを期待したい。


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● 足利事件に思う

(大森 猛)

足利事件の菅谷利和さんの無罪を名実ともに確定する再審公判が、宇都宮地裁で1月22日 から始まり、昨年6月の釈放以来、あらためてメディアでも様々な角度から取り上げられ ている。

3月26日に、無罪判決が行われる予定である。そこでは、単に無罪を言い渡すだけでなく、 なぜこのような冤罪が作り上げられたのか、その構造や原因、それとのかかわりで検察 、警察の責任、さらには裁判所の責任をも明らかにし、無実の人間に「殺人犯」の汚名 をかぶせ、自由を、友人を、そして家族をも奪って、その生涯を完全に破滅させる冤罪 事件など二度と再び起こさせない、その重要な契機となるような判決が求められている。

菅谷さんも2月12日の再審第6回公判での最終意見陳述の中で、「再審公判の最後にあた って、裁判所にお願いしたいことがあります。それは、なぜ何もやっていないのに私が 犯人にさせられ、17年半も自由をうばわれたのか、その原因をきちんと説明してほし いということです。

そして、こうなった責任は誰にあるのかも、きちんと説明してほしいということです。」 と訴え、最後に「自由をうばわれた17年半は、本当につらくて苦しい毎日でした。 私と同じように冤罪で苦しむ人が、今後二度と出てほしくはありません。そのためにも、 足利事件の真実を明らかにしてほしいと思います。

裁判官、どうか、私の17年半をむだにしないような判決をお願いします。」と結んで いる。裁判所がこの菅谷さんの心底からの訴えに、裁判所が真正面から応えることを強 く期待するものである。

結審となったこの公判で、無罪論告を読み上げた山口幹生検事は「真犯人ではない菅家 さんを17年あまり服役させ、取り返しがつかない。今後このような事態を起こさない よう取り組んでいく所存です」として、他の二人の検事とともに腰を直角に曲げ、謝罪 し、突然の謝罪に法廷内は水を打ったように静かになったという。

この謝罪について、ジャーナリストの江川紹子氏はブログで、「どうも釈然としない」 「この20日ほど前の記者会見で、宇都宮地検の高崎秀雄次席検事は、菅家さんを有罪に 追い込んだDNA鑑定や虚偽の自白を引きだした取り調べ方法について、『特に何か問 題があったとは思っていない』と強調していたのだ。」として、「検察は何を誤っただ ろう」と疑問を投げかけている。

しかし、江川氏も、また、主任弁護人の佐藤博史弁護士も、法廷という公開の場で謝罪 したことは評価できるとしている。

 また警察については、昨年、釈放後の6月17日、栃木県警の石川正一郎本部長が菅谷 さんに直接「本当に申し訳ありませんでした」と謝罪した。菅谷さんは、昨年8月出版 した著書「冤罪 ある日私は犯人にされた」のなかで「自分が受けた仕打ちを忘れるこ とはありませんが、詫びる気持ちは伝わった」として、「県警に対しては『許す』とい う気持ちになった」と率直に語っている。

 だから菅谷さんは、最終陳述のなかで、謝罪をしてほしいとしてあげたのは、執拗な 取り調べで菅谷さんに決定的な絶望感を与え、冤罪への道を開いた森川(大司・元)検 事と誤ったDNA型鑑定を行った福島(弘文)科警研所長とともに裁判所であった。

 佐藤弁護士のこの足利事件の闘いを振り返った「中間報告」(先の菅谷さんの著書に 掲載)を読んでも全く素人の私にも、裁判所というのは、いったん下した判決を見直す のに、恐ろしいほど頑迷で牢固たる態度をとり続けるところであることが理解できた。

 例えば、事実上、冤罪の要因の一つとなったDNA型鑑定が誤っている可能性が出て きたとして再鑑定を要請してもこれを拒否した最高裁、さらに独自の菅谷さんの毛髪の DNA鑑定を提出して行った再審請求を、道理のない理由で却下した宇都宮地裁などが そうである。

菅谷さんは、昨年末、18年ぶりに、故郷足利市に帰り、市営住宅に入り、新しい生活を 始めている。新聞でも、市民と一緒に山に登ったり、幼いころ遊んだお寺で除夜の鐘を 撞くなど日常社会にとけ込み、4月から、志の臨時職員として働くことが決まったと、 徐々に失った人生を取り戻しつつあることを伝えている。

菅谷さんは、その一方で、各地の集会などに出かけ、うその自白に追い込まれていった 取り調べの体験など語って、冤罪防止を訴えている。

この事件は、検察、警察の取り調べや捜査のあり方、DNA型鑑定など司法にさまざま な問題を投げかけている。報道のあり方も重要な課題として提起されている。

そのなかで志布志事件などもあいまって、冤罪を作り出さないために、とりわけ世論と しても広がっているのが取り調べの全面可視化である。菅谷さんも各地の集会で、その 実現のためにもがんばると訴えている。国会では、昨年、一昨年とすでに当時の野党提 出の「可視化法案」が参議院で2度にわたって可決されている。

しかし、民主党政権になって以降、「可視化」は「視界不良」(神奈川新聞)などと言 われている。小沢幹事長の事件で「政争の具」にすらしようとする動きもある。こうし たことは許されない。

今、刑事司法の信頼回復、冤罪防止、さらには国民のための司法の実現のためには、密 室での長時間取り調べ、自白偏重、代用監獄での長期の身柄拘束などの抜本是正、見直 しとともに取り調べの透明化、全面可視化は喫緊の課題である。


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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

● 惜別、
◆弁護士佐久間哲雄さんを偲んで

本郷 敏子

 佐久間さんの活躍のすべては存じあげませんが、「警察見張番」の立ち上げ総会 (2007・7・21)から10年間、その前の電話盗聴事件・神奈川住民訴訟を 合わせれば20年間、警察の不祥事を追及し、市民の安全をまもる活動を進めてこ られました。

私は、住民訴訟を行った「盗聴事件神奈川の会」の事務局長の仕事を 後半5年間務めた折、佐久間弁護団長にお世話になり、また私達の「警察見張番」 の活動結成以来、佐久間弁護士と共に活動して来ることが出来たことに深く感謝い たしております。佐久間さんは、常に「見張番だより」や例会の代表あいさつで、 運動の方向を示してこられました。

私は改めてその「見張番だより」を読み返し、その一部分を再録し、自らの活動・ 運動の指針にしようと思っています。

最後に愛媛県警の巡査部長・仙波敏郎さんのお祝いの席で祝辞を述べられた佐久間 さんの雄姿が深く印象に残っています。

下記の佐久間さんの「言葉」は、「警察見張番」が活動を始めた直後に開いた例会 に於ける佐久間さんの「ことば」です。

◎佐久間さんの開会の「ことば」 (「見張番だより」5号2001年9月6日付より抜粋)

 例会での参加者のご意見、役員会の議論、そして刑事確定記録の閲覧作業などを 通じ、私は「警察見張番」が順調に滑り出したと思っています。将来、立派な大木 のような組織に成長する素地は出来たと考えております。

 社会の風土を変えるには10年かかるといわれます。私たち「警察見張番」が相 手にしているのは、権力機構の中の典型である警察であります。明治政府以来10 0年になる権力機構の体質までをも変えてしまおうという運動です。私たちは腰を 落としてあわてず騒がず着実に前進していきましょう。

 神奈川県警の病巣にピタリと照準を定めた作業を続けていきます。第一線で苦労 を重ねている警察官が胸を張り、誇りをもって職務に取り組める神奈川県警を一日 も早く実現させるために、市民の立場から運動を展開します。みんなで頑張りまし ょう。

〜〜〜〜〜 <追記> 〜〜〜〜〜

本郷 敏子

2月23日夕方、弁護士の鈴木健事務局長から、佐久間哲雄さんの訃報を知らされ ました。生田典子さんと私は、翌日24日の告別式に参加し、佐久間さんへの感謝 とお別れの献花を捧げてきました。当日は横浜弁護士会の総会と重なり、弁護士会 長の弔辞を増本敏子弁護士が代読されました。佐久間さんの経歴が紹介され、会社 勤めをしながら東大法学部に入り、弁護士になった努力家であり、横浜弁護士会の 会長も勤められました。享年76歳でした。

佐久間さんの病を知ったのは、昨年3月末でした。現職警官として初めて警察の裏 金問題を告発した仙波敏郎さんが、愛媛県警を定年退職されることになり、そのお 祝いに神奈川の見張番から佐久間さん、鈴木さん、生田さん、私の4人が参加しま した。

行事が終わって、ホテルのロビーで生田さんと佐久間さんのお二人がお話している ところを見受け、近寄って行きますと、ガン治療の話でした。ガン治療をしている 生田さんの近況を伺っておられるのかと思いましたら、後で聞きますと佐久間さん ご自身のことでした。

その後、佐久間さんにお目にかかったのは「見張番」の役員 会での一度だけでした。佐久間さんの病は、ご本人の要望で役員内に止め、役員会 としてお見舞いの手紙を送ったこともありました。生田さんが薬草をご家族にお届 けしたことも聞いています。

 年明けてから佐久間さんから生田さんにお会いしたい、との連絡があり、私と二 人でお見舞いの日程をきめたのですが、生田さんの治療・通院の日程と重なり、先 延ばしになりました。一方生田さんから佐久間さんに電話で連絡しようとしました が、病院側の規則とのことで連絡がとれませんでした。最後にお見舞いに伺えなか ったことが悔やまれてなりません。とても残念です。

佐久間哲雄さん、どうぞ安らかにお休みください。 

以上

◆ 佐久間先生のこと

K.M.

 今回、「見張番だより」の紙面で佐久間の追悼をして下さるとのことで、昨年9月 まで、佐久間法律事務所で約19年間事務職員としてお世話になった私にも、思いが けず寄稿の話がまわってきた。

 いろいろと考えてみたが、事務職員として外の方に向けて話すときのように、「先 生」はつけずに、尊敬語は使わずに、身内としての立場でなら書けるかも知れないと 思い、佐久間を送る、自分なりの区切りになればとお引き受けすることにした。

佐久間について話すとき、佐久間をご存知の方ならまず始めに出る言葉が「ヘビース モーカー」ではないかと思う。見事なまでに時代に逆行したその愛煙家ぶりは、亡く なる少し前まで続いた。

 「酒は止められるかもしれないが、煙草は止めない。止めるつもりはない。」と豪 語し、嫌煙家の、佐久間を除く事務所全メンバーをげんなりさせていたことを、今ふ と思い出した。

 シャツの裾がズボンからはみ出していることなどは日常茶飯事で、食べこぼしのシ ミはつくる、煙草の灰であちこちにコゲをつくる・・・私はいつも「先生シャツが」 「先生シミが」とボヤきながら、ぷりぷりして掃除機をかけていた。

私がみてきた佐久間は、そのほとんどが事務所にいる姿だ。不思議に思われるかもし れないが、これほど長く勤めていたにもかかわらず、弁護士として法廷に立つ姿を見 たのは、届け物をした1回だけだったと記憶している(だからこそ、前述のシャツだ、 シミだ、灰だ、という話になるのだが・・・)。

今、この紙面を読んでいるみなさんは、主に市民活動を通して佐久間とのつながりが あった方々だろうと思うが、「市民活動」をしているその姿もまた、私は直接見たこ とがなかった。

今回、みなさんが佐久間の訃報に触れた時、それぞれの内にある佐久間の記憶が、た ぶん私が知ることがなかった佐久間の顔が、頭をよぎったのではないだろうか。 これから、みなさんが何かの折に佐久間を思い浮かべることがあれば、それは、煙草 をふかしながら愉快に笑っている顔であったらいいと思う。

あるいは気炎を上げながらお酒を飲んでいる姿でも。そして私は、他の人が知らない 私の中の佐久間を折に触れ思い出すことになるのだろう。

◆ 佐久間先生を偲んで

K・Y 生

去る2月23日の夜、「佐久間弁護士死去」の報を聞き、驚きと悲しみに打ちひし がれました。

 人生の大半を弁護士として、社会の不合理性と闘い、また市民活動の「警察見張 番」の代表としてリーダーシップを発揮され、理論的にも市民・住民を導いてくだ さいました。深く感謝しております。私自身、体調を崩して集まりにも欠席状態で、 皆さまにご迷惑をかけていることを気にかけている、そんなある日でした。佐久間 さんの体調が良くないということを伺いまして案じておりました。

一見タフそのものに見えた佐久間さんにしても、病魔には勝つことは出来ず、夜空 の星になってしまわれました。残念でなりません。「本当に有難うございました。

佐久間先生、安らかにお休みください」


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*****編集後記*****

今回の32号ほど辛い編集はありませんでした。ある日、佐久間弁護士から直接お電話 をいただき「話をしたい」ということで病院へ伺う予定だったのに、私自身が体調を崩 してしまい伺うことができませんでした。結局、お目にかかれずにお別れとなってしま いました。悔やまれます。

「見張番だより」は、年4回発行しています。 初めのころは、神奈川県警に関することだけを取り上げておりましたが、今では北海道 の原田さん、愛媛の仙波さん、群馬の大河原さんからも原稿を頂き、情報をいただくよ うになりました。

そして、それらは共通して警察組織のみならず、私達の生き方そのものを見つめる機会 にもなりました。私達を支え続けてくださった佐久間弁護士を失いましたが、これから も鈴木健弁護士を中心にして、日本のあちこちとネットワークして参りたいと思ってお ります。

4月3日、総会を予定しております。仙波さんに講演もお願いしております。改めてハ ガキでご案内をいたしますが、皆さま大勢のご出席をお待ちしております。

(生田典子)


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