トップ画面に戻る
(2002年5月21日)

* 警察見張番だより第7号
***** もくじ *****

お読みになりたい項目をクリックしてください。

     ● 警察官の勤務考課   (佐久間哲雄)

     ●「刑事確定記録」ついに出版なる! (鈴木 健)

     ● 上三川事件とは   (山田 泰) 

     ● 県警職員の収賄事件弁護を担当して (工藤 昇)

     ● 「暴走族」一掃の可能性  (藤田 温久)

     ● 事務局より

     ● 編集後記

トップ画面に戻る

目次へ
● 警察官の勤務考課   (弁護士 佐久間 哲雄)
 埼玉県警が警察官の勤務考課に目標達成度を取り入れることになったと報道された。
  
 1990年半ば頃から、成果主義を基本とする人事制度が広まり、わが国の企業では
現在ではすっかり定着した。
  
 警察官の人事制度といえば、なんといっても昇進試験が根幹だろう。職務に必要な関
係法令等の理解はもちろん大切だが、昇進に知識の要素を重視するのは疑問である。
警察官としてもっと必要なものが多いと考えるがどうだろうか。
  とまれ、埼玉県警の試みを評価したいと思う。

警察官一人一人がそれぞれの役割と能力に応じた目標を自ら設定することは、組織の中
での自分の職責を自覚させ、日々の業務において自立的な責任ある行動を促すことにな
るだろう。

  埼玉県警の新しい試みに対し、警察官は組織で仕事をしているのだからうまくいくか、
或いは上司と部下の関係がぎくしゃくするのではないかなどの批判があると聞く。
人事制度に目標達成度を取り入れた多くの実例が積み重ねられており、多くの研究成果
も既に存在している。新しい人事制度を警察官を管理する手段に使うなどのケチな考え
を捨て、ぜひ本来のねらい通り成功してほしいものだ。

  警察官の勤務考課については、他の都道府県警でも検討が始まっているようである。
神奈川県警においてもおそらく作業に入っていると思われるが、第一線で苦労している
警察官に希望を与え、日々の職務遂行に意欲が生まれる勤務考課の実施に踏み切って欲
しい。神奈川県警は、閉鎖主義を捨て時機を失することなく、県民・市民に見えて来る
改革のメッセージを発信し、広く世に問うべきであろう。

目次へ :
     
●「刑事確定記録」ついに出版なる!
 (弁護士 鈴木 健)
「警察見張番」立ち上げに当たってのメインイベントとして掲げた「神奈川県警本部長
などの犯人隠避・証拠隠滅刑事事件確定記録」が、ついに日の目を見ることとなりまし
た。会員の方で既に気づかれた方もいらっしゃるかも知れませんが、
4月25日に発売された別冊宝島Real033『裸の刑事』の中のPART3「隠蔽工作―神奈川県
警不祥事を再検証する」がそれです。

 この出版にこぎつけるまでの間には、多少の迂余曲折がありました。すなわち、前回
の「見張番だより 第6号」において、閲覧作業によって取ったメモのまとめ作業を、年
末年始を利用して行ったことをご報告しましたが、これをもとに我々役員は、この手の
社会問題に関心がありそうないくつかの出版社にあたってみたのです。 ところが、こ
の過程で、我々も改めて思い知ったのですが、出版業界というのは想像以上に構造不況
業界となっているということです。とにかく、過去の事実のドキュメントものというの
は、あまり売れ筋にならないのだそうなのです。しかも、単行本として出そうとすると、
全社的に検討をして、半年か1年位かけて構想を練り上げなければならないとのことで
した。この「覚せい剤もみ消し事件」が発覚してから既に2年半近くが経過してはいる
ものの、我々の活動の成果をなるべく早く会員の皆様や社会に対し明らかにしたいと考
えました。そこで、当初考えていた「単行本として単独出版」するという形は断念し、
とにかく早く世に出せる方法をとることを選択した次第です。
 
そのような折り、たまたま「別冊宝島」で近々警察ものを出版する計画があり、その何
本かの原稿の内の一本としてでよければ、との話が舞い込んできました。しかも「別冊
宝島」は単行本ではなく雑誌扱いの書籍であるため、企画から出版までわずか3か月前
後という短い期間で世に出せるとのこと。それを聞いて、取り敢えず今回はこの話に乗
らせていただかない手はないと考え、宝島社にお願いすることにした次第でなのです。
もっとも、本をご覧いただけばお分かりのとおり、我々の原稿は、米本和広さんという
ルポライターによってドキュメントもの風にリライトされています。さすがプロのライ
ターさんだけあって、確定記録から読み取れる事実経過自体は、かなり流れよく、読み
やすくまとめられています。が、もちろん「警察見張番」としては、実際にあった事実
を世に知らしめるだけでなく、それをどう評価し、どのように神奈川県警が改善されて
いかなければならないかについて提言していかなければならないと考えています。しか
し、今回の出版に際しては、『裸の刑事』全体の趣旨(現場捜査官の生き様を語ること)
および紙幅の制約から、断念せざるをえませんでした。また、記録を実際に閲覧した立
場からは、内部報告書や捏造文書などの生資料をそのまま世に明らかにしたい、と考え
ていました(とにかく、これが一番読者の方がご覧になってびっくりされるはず)が、
それも同様の理由でできずに終わってしまいました。

 まあ、欲を言えばきりがありません。まずは我々の活動の成果を(比較的)早期に世
に現すことができたことを、素直に喜びたいと思っています。
 生資料をも含めて、別に単行本として出版することを考えていただける出版社を探す
作業は、今後も続けていきたいと考えていますので、会員の皆様も、社会的意義のある
過去の事実を、ほとぼりが冷めても追及し続けるような本を出版してくれそうな出版社
に心当たりがありましたら、ぜひ情報提供をお願いいたします。

※なお、残念なことに、記述内に肩書きや呼称
など幾つかの間違いがあり、出版社に訂正の
申し入れをしました。(編集子)

目次へ :
     
● 上三川事件とは   (弁護士 山田 泰)
  ――「上三川事件を通じて見えてくるもの  
       小野瀬芳男弁護士を囲んで」――
                                              
  3月7日、宇都宮から上三川事件の主任である小野瀬芳男弁護士をお招きして例会が開
かれました。他の日程との重なりや宣伝不足もあって少数しかご参加いただけなかったの
はもったいない気がしました。

  さて、上三川事件とは「栃木リンチ殺人事件」として全国的に報道されたものです。

  この事件は、19歳の少年3名が、同じ19歳の須藤正和君を約2か月間にわたって監
禁し、リンチを加えて600万円以上もの大金を強奪し、ついには殺害して死体を穴に埋
めてしまったものでした。したがって、本来であれば強盗殺人罪として立件されるべき事
件でしたが、なぜか単純な殺人罪と死体遺棄罪として処理されてしまい、しかも真相解明
を求める正和君のご両親に対して、警察は隠蔽工作をするなど不可解な行動をとったので
す。
            ★ ★ ★  
  正和君は日産自動車に務める会社員で、会社の寮に住んでいました。

  上司から正和君が長期間無断欠勤していると両親に伝えられたことから、凄惨なリンチ
の進行と両親などの救出の訴えとが、リアルタイムで同時に進行して行くことになります。
  犯人らは、正和君にサラ金回りをさせたり、友人・同僚・両親などから金を引き出すよ
う迫る一方、熱湯のシャワーをかけたり、殺虫剤スプレーから火炎を放射させて浴びせか
けたり、更には殴る、蹴るなどの暴行を加えていきます。その一方で正和君は金の無心の
ため電話を強要されるなどして、両親は異常な状況にあることを示す情報をつかんでいき
ます。
  両親は石橋警察署に正和君が監禁状態にある可能性を訴えました。しかし対応した警察
官は「そんなに大金を借りまくって、もしかして麻薬でもやっているんじゃないのか」と
言うのです。両親は、救出のために、「麻薬の線で捜査をして下さい」と訴えました。

  しかしその警察官は「これは事件ではない。警察は事件でないと動かないんだよ」と言
うだけで、キャスター付き椅子にふんぞり返り、メモをとるノートの上でくるくる指でボ
ールペンを回しながら、手に取ったそのボールペンでメモを取ることなど一切なかったの
です。

  正和君の同僚が警察署に出向き、犯人らから脅かされるようにして正和君に金を貸した
ことや正和君の顔に殴られたような傷があり、顔全体が腫れ上がっていることを話しまし
たが、警察は捜査には入りませんでした。

 更に正和君が金を引き出しに来た様子が銀行の防犯カメラに写っていることも明らかに
なりました。銀行からは「息子さんは顔全体にやけどをしています。周りに変な男たちも
付いています。早く警察に相談した方がいいですよ。防犯カメラに移った映像はいつでも
証拠として出します」と話しがあり、母親が警察署にその旨報告しました。それでも警察
は動きません。

  父親が石橋署で訴えているとき正和君から父親の携帯に電話が入りました。父親は一計
を案じ、「今ここにお父さんの知り合いがいるから、代わって話をしてもらう」と言って、
対応していた警察官に電話を渡しました。正和君に誰ですかと聞かれ、警察官は「警察だ。
石橋署だ」と言ってしまい、犯人らは正和君に電話を切らせてしまいました。

  警察が動いていると感じた犯人らは正和君を殺害して犯行を隠蔽しようと考えました。
犯人らは正和君の口座から預金を降ろし、その金でスコップ、軍手、セメントなどを買い、
見ている前で穴を掘りました。すでに衰弱し切っていた正和君は、ただ「生きたまま埋め
るのか。残酷だなー」と言っただけだったということです。

  犯人らは正和君をネクタイで首を締めて殺し、穴に埋め、その上からコンクリートを流
し込みました。
  犯人らは逃亡しましたが、この外に途中から加わった16歳の少年が警視庁に自首し、
事件の全容が明らかとなりました。

  しかしメディアは正和君を「暴走族」と誤って報じ、あたかも仲間喧嘩の果てのリンチ
事件でないかとの印象を与えました。偽りの情報をリークしたのは栃木県警ではないかと
見られています。
 両親は弁護士を代理人として、石橋署の捜査怠慢の事実調査を行い、また警察署に要請
書を何度も提出しました。警察署は回答を寄せたものの内部調査は不十分のうえ、正和君
の同僚が警察署に出向いたという大切な事実は隠し続けたのです。
 
                ★ ★ ★
  主犯格の少年の父親は、当時栃木県警氏家警察署の交通課の警部補でした。また、日産
自動車の総務部副部長は、栃木県警からの天下りでした。

  両親は、犯人ら、その親たち及び栃木県を相手に訴訟を提起しました。警察の対応や態
度につき「そんな警察はいらない」、「このような県警の態度に自浄能力を期待するのに
は限界があると感じ、今回の訴訟に踏み切った」と法廷で陳述しています。来年からいよ
いよ関係者の証言が始まる見込みということです。

  なお、市民オンブズパーソン栃木などが編集した『こんな警察はもういらない! 上三
川事件から見えたもの』(1000円)は警察見張番で販売しています。 

目次へ :
     
● 県警職員の収賄事件弁護を担当して
(弁護士 工藤 昇)
 
 奇妙な縁で、加重収賄で起訴された神奈川県警職員の刑事弁護を担当しました。

 被告人は、高校卒業後、県警に採用され、もっぱら「保安部門」で覚せい剤や拳銃の
摘発に従事し、優秀な成績を上げ、同期の中では最初に県警本部に配属されるなど、
ノンキャリア組の中ではエリートコースを走り続けていました。保安部門の警察官は、
「情報提供者」からリークされる情報を頼りに覚せい剤や拳銃を摘発していきます。
情報提供者と言っても、正義感から警察官に協力しようという人たちではなく、大半は
暴力団員やその関係者で、警察官に協力することで何らかの見返りを期待しようという
手合いです。いきおい、警察官は、情報提供者からのさまざまな要求や誘惑に曝される
ことになり、すさまじいストレスと闘いながら、自らを律して任務を遂行していかなけ
ればならないことになります。この事件の被告人も、長年、こうした誘惑をはねつけて
きたのですが、まったく魔が差したとしかいいようのないきっかけから、情報提供者の
1人について、逮捕状が出ているかどうかの情報をリークし、その見返りに賄賂14万
円を受け取ってしまったのです。

警察庁長官賞まで受賞したことのあるエリート警察官が収賄に手を染めた背景に、県警
組織が抱える病巣の根深さを垣間見たような思いがします。一線の警察官が、拳銃や覚
せい剤から市民を守るため、身を削るようにして働いているというのに、県警からは十
分な経済的バックアップも得られず、他の警察官と捜査手法を共有する機会もなく、
カウンセリングなどのフォローもなされないまま、「不祥事に気をつけろ。」という掛
け声ばかりが一人歩きをしている。ノンキャリアの目から見た県警の組織は、この程度
の現状にあると言わざるを得ないのではないでしょうか。実際、この事件の記録を見て
も、県警の不祥事対策として現れてきたのは、ごく形式的な研修会を開いた程度で、
組織として不祥事の再発に取り組もうという真摯な気込みは、残念ながら見受けられま
せんでした。
被告人には、執行猶予付の有罪判決が言い渡されましたので、刑事事件としてはこのま
ま終了することになるでしょう。ただ、この事件の捜査過程において、見過ごすことの
できない出来事がありました。被告人の逮捕に先立つ1か月も前、まだ贈賄側が逃走し
ている時期に、被告人の自宅に新聞社の取材が行われたのです。県警内部の何者かが、
マスコミに対して、まだ極秘であるはずの捜査情報をリークし、被告人の自宅まで教え
てしまったことは明らかです。警察情報の公開は「捜査情報」の厚い壁に阻まれている
にもかかわらず、県警側は公務員の守秘義務も個人のプライバシーも無視して、都合の
いい情報を垂れ流しにするというのは、あまりにも不合理です。「マスコミ規制法案」
が国会に提出されるような現状を考えますと、この捜査情報の漏洩事件は非常に重要な
問題を孕んでいると思いますので、今後、何らかの対応を取っていきたいと思っていま
す。

〜〜〜〜 次ページへ 〜〜〜〜
目次へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送