第16号の2

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        ========== 目 次 =========
    ● 最近わかってきたこと            (間瀬 辰男)

    ● 中越地震災害地へ駆けつけて        (柿坂 寛之)

    ● <事務局より お知らせ>

    ● <編集後記>     
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 ● 最近わかってきたこと   (間瀬 辰男)
 ――「自警団」と「安全・安心条例制定」
の動きについて――
              
間瀬 辰男    
@身近にできた「自警団」への困惑
世の中には、何気なく見過ごせるようなことが、後になって途方もないことだったと分かる
ことがある。最近、私は「あれは悪い夢だった」と早く夢が覚めて欲しいと思っていること
に遭遇した。

私は、横浜市戸塚区の700区画ほどの分譲地に住んで30年になる。地域では今一斉に定
年退職を迎えた人で満ちている。昨年末、ゴルフ仲間を中心としたグループが「夜回り」と称
して拍子木を叩きながら「戸締り用心、火の用心」と合唱連呼して歩いてまわった。中心人物
は祝日には国旗を掲げる人物である。今年6月になり、突然、「自警団からのお知らせ」とし
て「この度自治会からご承認を頂くことになり有志によって実施されていた<夜回り>が
<自警団>として新たにスタートいたしました」また、「自警団への助成について」として
「現在参加者61名に達し活動のいっそうの活発化が目指されている趣旨を自治会も理解し
助成金として55,000円を予算計上した」との回覧が回ってきた。私の脳裏にナチス親
衛隊、紅衛兵の姿が浮かんだ。そこで、私はその必要性、行動の目的・手段の相当性、名称
の妥当性、夜間騒音の迷惑について自治会長に質問書を送ったが、「ご理解いただきたい」
という口頭による回答だけだった。
7月23日「警察見張り番」総会において、渡辺登代美弁護士の講演を聞き事態を一応理解で
きた。絶妙なタイミングの講演だった。翌24日、地域の地区懇談会があり、区役所の地域
活動係長が「防犯対策」について話をしたので、注文をつけた。また、8月の県の広報で、
条例制定についての意見募集をしていたので、メールで意見を述べた。
            
「夜回り」をしている人達は、健康のために歩くのが本当の目的ではないか。それに人のた
めになっていると思えることが兼合わさればよいと思ってやっているのだろう。しかし、自
分の都合を優先し、深く事柄を考えることもなく集団として行動することの危うさに気付か
ないことを危惧する。
制帽、制服があるところもあるという。その効用がはっきりしない「安全・安心条例」ラッ
シュ、「自警団」ラッシュが悪い夢に終わることを願う。

@問題へのアプローチ
渡辺登代美弁護士の講演は、「自警団」という唐突な困惑に遭遇していた私にタイミング
よい手引きとなった。その後、私の問題意識の中に入ってきたこの問題を理解する上におい
てヒントとなると思われるものを以下に羅列したい。

1「安全・安心」と「条例」
「安全」とは、「安らかで危険のないこと、物事が損傷したり危険を受けたりするおそれの
ないこと」(広辞苑)ということについては多分異論はないと思われる。「安心」とは、
「心配、不安がなくて心が安らぐこと、また、安らかなこと」(広辞苑)ということについ
ても異論はないと思われる。
ここで問題なのは、「安心」は人の内心の心情であるということに注意しなければならない。
権力、法令が人の内心に立ち入ろうとしていること、そのようなことを何故法令が立ち入る
のかに注目する必要がある。

2「安全」と「警察」
「警察」とは、「社会公共の安全・秩序に対する障害を除去するため国家権力をもって国民
に命令し、強制する作用、また、その行政機関」(広辞苑)具体的には、として警察法第
2条第1項を引用している。
 警察法第2条(警察の責務)第1項には、「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に
任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維
持に当たることをもってその責務とする」と定めている。他の条文は無味乾燥だがこの条文
を含めて1条から3条までの「総則」の条文は、私には美しい内容で一読お勧めの法律であ
る。私が暴走族に怪我をさせられた時、この条文を引っさげて警察に乗り込んで行った時の
ことを思い出す。

3「安全安心条例」:インターネット上の参考資料
「市民と憲法研究者をむすぶ憲法問題WEB」www.jca.apc.org/~kenpoweb/の「論説のペー
ジ」のうち石崎学(亜細亜大学助教授)「民衆が警察の手先となる時―東京武蔵野市の条例の
検討 国家の保護による安全か自由か」は一読の価値がある。憲法改正・有事法制の正当化
・警察介入の拡大などの伏線、監視社会化、全体主義化などの指摘。
 特に、 [日本国憲法が「安全」という文言を人権規定からは放逐し、かわりに平和的生存
権を掲げ「安全」を口実にした「保護者としての国家」を否定している意義はあらためて重
視されるべきである] との結びは私には考え方のヒントになる。
 他に、憲法の「平和主義」を維持することに耐えられなくなって、「平和」を「安全」の
レベルにすり替えようとする動きであると指摘したページがあった記憶があるが、あらため
て探したが見つからなかったのが残念である。

4「安心のファッシズム−支配されたがる人びと」(斉藤貴男著 岩波新書)
 この本の題名を見たとき自警団に参加している人達の心象について私が抱いているイメー
ジとダブルものがあり飛びついて読んだ。「何もかもが怖い人々は、とりあえず最も強そう
なものに縋り付く。そもそもの恐怖の種をまいてくれた、他ならぬ国家の警察と軍隊に」
(174頁)。空巣の頻繁な噂、大地震という不確かなことに対する注意喚起、テロの脅威の
流布、年金の減額、高齢者が孤立するかのごときイメージの高齢化社会、これらの「不安」
の流布が充満した対極は根拠のない「安心」への羨望である。著者は直接的には言及してい
ていないが、文部科学省が2002年4月から全国の小中学生に配布している「心のノート」
という冊子の作成協議会座長である河合隼雄元文化庁長官が、ユング派心理学者であるとい
う点にあらわれているように、最近の色々な事象が心理操作によって行われているという予
感を裏付けられた感じで、怖い気分になる。第3章の「自由からの逃走」は圧巻でぜひ一読
してほしい部分である。

5責任が限りなく下におりてくることを容認する意識構造
 日本の歴史書は、古事記・日本書紀の天皇に「仕奉る」(以下、「つかえまつる」と表記
)者たちに始まり、徳川実記より前のものは平家物語を除き「つかえまつる」者たちの栄光
の記述である。この「つかえまつる」、つまり、下の者が上の人のために何かをして差し上
げるという意識が、終戦時皇居前の玉砂利の上で正座して泣いていた人々、終戦から20日
後に「国民は戦争努力の足りなかったことを陛下にお詫びしなければならない」との東久邇
首相が行った施政方針演説に象徴的にあらわれている。政治学者の丸山真男が述べているよ
うに「こういう意識の社会では責任が限りなく下におりてくる」のである。この意識の結果
として、何かをしなかった責任を問われる。「つかえまつる」人間というのは何かをして差
し上げなければならない。そうすると、中身の良し悪しはともかく何かをすれば、「つかえ
まつる」義務を果たした証と考える余地があることになる。「火の用心」などと効果も定か
でないことを言って歩くことの意味が解明された思いである。
 
6社会よりも国家が怖い
 9月10日付け朝日新聞朝刊15面の対談「9・11から3年」で、宮台真司(都立大助
教授)は、「社会より国家が怖いが近代社会の本義」「不安がベースになると人は国家を頼
り、国家の過ちに甘くなる。日本でも似た現象がある」と発言している。重く受け止めたい。
「安心」の裏返しである「不安」について、マスコミがようやくその本質に迫ろうとしてき
たかに見える。

@結び
 凡人の無邪気の悪魔性という直感は外れていなかったが、その先にあるそれを利用しよう
とする悪知恵は、もっと深く、壮大であることが見えてくると戦慄で立ちすくむ。
 警察には、警察法第2条1項の責務を果たしてもらいたい。そして、第2項の「警察の活
動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであって、その責務の遂行に当たっては、
不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干
渉にわたるなどその権限を濫用することがあってはならない」という責務も果たしてもらい
たい。

*
● 中越地震災害地へ駆けつけて (柿坂 寛之)
 04年10月23日、震度6を超える地震が新潟を襲いました。災害ボランティア活動に
関わっている私は、緊急に開かれた県災ボラの会議に参加しました。情報が充分に得られな
い中、とにかく現地へ行くことにしました。走りながら体制をつくって行くことにしたので
す。
翌24日、車で出発。途中で必要と思われる物資(パンと水など)を調達して私は小千谷へ
向かいました。柏崎市から小千谷市に向かう途中で震度5強の余震に遭遇しました。ハンド
ルが右左に取られ蛇行運転になります。道路脇にたるんでさがっていた電線からは「パチン
パチン」とものすごい音がし、さすがの私も胸がドキンとしました。道路はいたるところで
陥没、亀裂がはいっています。身動き出来なくなったタクシーが道ばたに乗り捨てられてい
ます。 

ようやくたどり着いた現場では、どこもかしこもメチャメチャ状態。人々は、学校や保育所
に避難していました。町内会の役員が中心になって対処していますが、その中に女性がいな
いことが心配でした。
避難所では、食物も情報も不足していました。
「カロリーメイトしか届かない」「ここは避難所として認定されているのか不安だ」という
声が出ていました。また、トイレ問題もありました。保育所のトイレは上半分があいている
ため、大人の利用者には精神的に苦痛です。そこで、「あいている部分に目隠しをつけた方
がいいのでは」と提案し、さっそくカバーがつけられました。

 トイレには、水が出ないので「大便は新聞紙につつんでビニール袋へ入れてください」の
張り紙があり、私は、現地では何も食べないことにしました。
その他、具合が悪くなった人が休む部屋、女性が着替える部屋がなかったので、「プライベ
ートルームは確保できませんか」と聞いたところ、被災者が入っている和室がそのために利
用できることになりました。あまりにもスムーズに話が進むので、和室にいた被災者はどう
なったのか心配になり、そのことを尋ねると、「役員の親族だったので大丈夫」という返事。
一瞬、言葉を失ってしまいました。

 私たちは地震直後に行きましたので、現地では物資や情報が不足していました。が、人々
のストレスは始まったばかりの状態でした。その後、行政も含めて全国からのボランティア
援助や救援活動が行われ、物資的にはかなり行き渡っていると思いますが、人々のストレス
は限界に近い状態ではないでしょうか。想像すると、胸が苦しくなります。当面は、後方支
援を中心に活動するものの、現地の要望によって必要な活動を続けたいと考えています。

*
● <事務局より お知らせ>
定例会のお知らせ
とき:12月6日(月)6:30〜8:30
会場:県民サポートセンター  305号室
講師:中野 直樹 弁護士 
(緒方靖夫氏宅電話盗聴事件の弁護団で活躍。現在さがみはら市民オンブズマンの代表幹事。)
お楽しみに!

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● <編集後記>

真夏日続きのあと、大型台風に襲われ、大地震に襲われるという、今年の日本列島は自然の
脅威に翻弄されています。被害にあわれた方々に心からお見舞い申しあげます。「警察見張
番」のHPを管理してくださっている柿坂さんが新潟の被災地へ直ちに行って救援活動をな
さいました。その時の様子を写真と共に送ってくださいました。
              
8月の末、北海道・函館で開催された市民オンブズマン全国大会に参加しました。特にこの
大会では警察問題が大きく取り上げられましたので、本号はその報告を多く掲載しました。
 パネリストの中に、北海道新聞の記者がいました。全国紙が取り上げない道警の問題を、
なぜ地方紙の北海道新聞がとりあげたのか、について「まず、警察のスキャンダルが明るみ
に出る中、市民オンブズマンなど市民の方が積極的に取り組み始めているのに対して、メデ
ィアはこれまで通り警察からのリークによる記事を書いていることに疑問を持ち始めた。
そんな中で原田さん、斉藤さん達の勇気ある態度に励まされて、自分たちも覚悟をして記事
を書き続けた」と話す姿に、メディアの存在理由を改めて考えました。その北海道新聞の取
材班に菊池寛賞が授与されました。嬉しいですね。
 
 私たち一人一人は小さな力ですが、声に出し、活字にすることによって多くの人々に伝え
、ネットワークを組むことができます。その時、一人の小さな力も大きな力となっていきま
す。
 大会終了後、10月23日には「明るい警察を実現する全国ネットワーク」が設立された
ことでも、それが証明されますね。(生田典子)
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