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(2007.02.11.)

* 警察見張番だより 23号の1
 <23の1>   <23の2>   <23の3> 
***** もくじ *****

お読みになりたい項目をクリックしてください。

<23の1>
     ● 私たちの運動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・佐久間哲雄

     ● 文書非開示処分取消請求訴訟・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・鈴木 健

     ● 判決に対する素朴な疑問・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・間瀬辰男

     ● 捜査報償費裁判をめぐって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・原田宏二

<23の2>
     ● 元警察官の妻として思うこと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・片岡昌子

     ● 戦後裁判雑感――
          ――特に裁判所の「戦争責任について・・・・・・・・・・・・・・石川利夫 

<23の3>
     ● 

     ● 事務局より・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・事務局

     ●編集後記 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・生田典子

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● 私たちの運動

弁護士 佐久間 哲雄

 先の通常国会の冒頭で行われた方針演説の中で、安倍総理大臣は来年の春までに空き交番をゼ にすると表明した。交番は、世界に広く知られ、その数は6000を超え、全国的な規模で空き交番を なくすという安倍総理の表明は高く評価してよいと考える。因みに神奈川県警では、既に全ての交番 に交番相談員の配置を終了している。

 地方分権のための特別法も既に施行され地方分権化の流れは作られつつある。教育と警察は、 地方自治の二本柱である(行政学における通説)。安倍内閣が、日本の教育の原状を根本的に改革 しようとしているが、おそらくその行き着く先は、教育行政の多くを地方に任せることになると思われる。

地方分権の流れが更に大きくなった時には、警察の在り方も大きな課題として浮上するに違いない。  1947年旧来の国家警察が解体され、自治体警察が誕生した。神奈川県にあっても神奈川県警の 他に横浜市警察が発足し、市民警察がスタートした。ところが1954年警察法が大改正され、残念な ことに自治体警察は大きく後退し現在の警察組織になった。

 警察の職務として全国規模で統一的に執行しなければならない職務は当然存在するが、市民社会 の秩序・安全をまもる機能は自治体に任せたほうが有効に機能するものが多い。そのため世界各国 の警察組織をみても自治体警察の二本柱を設けている例が多い。交番および駐在所は、地域に密 着した警察機構であって自治体警察の担う機能を象徴する存在と云える。

ここで、警察の在るべき姿を考えてみる時、英国で数百年経て築き上げられた原則が参考となると思 われるので簡単に紹介する。先ず警察は、市民の使用人として存在する(第1原則)ということである。

日本国憲法で公務員は全体の奉仕者であると規定されているところからも、上記の原則はわが国に おいても当然認められてよい。次に警察官は武器を携帯しないという原則(第2原則)。警察官の職務 は危険を伴う。英国の市民警察で長い試行錯誤・議論の末、武器を携帯しないという原則に到達した 経緯を私たちは考えてみる必要がある。

3番目に警察官は市民とともに居住し市民の一人として生活 するという原則(第3原則)である。警察庁は近年「国民に開かれた警察」を目指すと言っている。私の 家の近くに神奈川県警の警察学校があって、警察官に採用された若い人たちが敷地内の寮に入り 教育・訓練を受けているが、周辺住民との交流は全くない。

1993年横浜の中華街で犯人逮捕にあ たり殉職された警察官がでた。警察学校で神奈川県警察葬が執り行われた。警察葬への参加の招 待は横浜弁護士会にはなかったが、当時会長であった私は、職権を濫用(?)して殉職警察官への 感謝とお悔やみを表すため葬儀に参加させて貰った。葬儀はブラスバンドの荘重な響きの中で行わ れたが、式場を見渡したところ圧倒的に警察官が多く一般市民の参加は少なかった。些細なことで あるが開かれた警察を目指すにあたり、空き交番をなくすことも大切なことであるが、市民とともに警察 が行う行事を増やしてみてはどうかと思う。

英国の市民警察が挙げる原則として更に、警察官は職務行為について自ら責任を負い(第4原則)、 部隊として行動しない(第5原則)というのがある。ロンドン警視庁の警察官が胸に名札をつけている ことは、この現れである。私は弁護士として警察官に接する機会が多いが、私が名刺を出しても警察 官から名刺を出してもらうことは少ない。

かつて警察官も名札を付けたらどうかとの議論がおこったことがあったが実現しなかった。多くの私 企業や役所では職場で名札を付けることは一般化している。改めて警察官が名札を付けて職務執 行することを考えてみたらどうだろうか。国民・市民は間違いなく警察の努力を評価するだろう。

 地方分権に基づく市民警察は、時代の流れとしていずれは実現すると考えるが、開かれた警察の 実現は、この時代の流れに沿うものである。「威信の警察」から「国民の信頼の上に立つ」警察へと 変貌するだろう。そのための警察行政情報の公開は、ようやく動き出したばかりであるが、これもい ずれは大きな流れとなるに違いない。

公安委員会が名誉職として引受けた委員によって構成され ている原状から徐々に市民の声を代表する委員によって構成されるようになるだろう。原田さんなど が中心となって立ち上った北海道市民フォーラムの運動方針の一つとして、公安委員会の事務局の 独立を掲げているのは、市民警察の実現のためのワンステップとして素晴らしい着眼だと思う。

 長期のスパンで日本の警察の目指すところを思いつくままに書いてみた。日本の警察の在るべき 姿が現実のものになる条件は整いつつあると思われる。それにつけても、大きな変貌には、多くの 人々の苦痛と犠牲が伴う。智恵も必要だし、時には力も必要になるだろう。私たちの運動も、ささや かであるが貢献できたらと思う。


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● 文書非開示処分 取消請求訴訟
―― 控訴理由書のポイント――

弁護士 鈴木 健

                    
第1 はじめに
  
警察見張番が、神奈川県警察本部長を相手取って起こした文書非開示処分取消請求訴訟の 横浜地裁1審判決が、不当な全面敗訴判決であったことは、既に会員の皆様にも伝わっているか と思います。警察見張番はこの結果を不服として、東京高裁に控訴いたしました。以下では、2006 年12月1日の例会でお話しした1審判決の内容、及び、2007年1月23日に提出した控訴理由書 のポイントにつき、説明させていただきます。
第2 取消請求の対象
  
今回の訴訟の対象とした、文書非開示処分取消請求の対象は、「平成12年度・15年度警察 本部交通指導課の捜査報償費(県費)支出に関する一切の資料(現金出納簿および支払証拠 書類)」と、同内容の「平成12年度・15年度警察本部少年課の捜査報償費(県費)支出に関する 一切の資料(現金出納簿および支払証拠書類)」について公文書開示請求をなしたのに対し

「@現金出納簿(現金出納帳)の月日欄、摘要欄、金額欄、差引残高欄、A支出証拠書類のうち、 捜査費総括表の金額欄、捜査費支出伺、支払精算書、支払報告書(平成12年度分のみ)、捜査 費交付書兼支払精算書、支出伝票、領収書」を非開示とした処分、でした(具体的には、別紙1の ような状況)。

                        

第3 本件訴訟の(大きな)論点
  
本件訴訟で争われた論点のうち、主なものは次の3つです。
     
  • @本件各文書に記載された警部補以下の警察官の氏名等が、条例第5条1項に規定する個人 情報として非開示事由に該当するか  
  • A本件各文書に記載された内容が、条例第5条6項に規定する、公安情報として非開示事由に 該当するか  
  • B捜査報償費が、本来の目的に使用されているか
第4 本件各文書に記載された警部補以下の警察官の氏名等が、
条例第5条1項に規定する個人情報として非開示事由に該当するかについて

  1.   条例第5条1項は、次のように規定しています。
        第5条 実施機関は、行政文書の公開請求があったときは、公開請求に係る行政文書に 次の各号のいずれかに該当する情報が記載されている場合を除き、当該行政文書を公開しなけ ればならない。
      (1)個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、若しくは識別され得るもの又は特 定の個人を識別することはできないが、公開することにより、個人の権利利益を害するおそれがあ るもの。ただし、次に掲げる情報を除く。     イ 慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報

  2.   1審判決は、本件各文書に記載された警部補以下の警察官の氏名等が、本件条例5条1項 に該当するか否かについて、次のような思考過程で、該当性を認めました。

       @本件条例5条1項の趣旨は個人のプライバシー等の権利利益保護にあると解されるから、 ある情報が本件条例5条1項本文に該当するかどうかの判断は、特定の個人を識別することがで きるかどうかという観点から客観的、定型的に行うのが相当であり、本件各文書に記載された警部 補以下の警察官の氏名等は、本件条例5条1項本文に該当する。

       A本件各処分時において、警部補以下の氏名等を公開する慣行が存在していたとか、公に することが予定されていたと認めることはできないから、本件各文書に記載された警部補以下の警 察官の氏名等は、本件条例5条1項ただし書イには該当しない。

  3.  しかし、まず、本件条例が、県民の知る権利を尊重し、県政を県民に説明する責務が全うされ るようにすること(1条)を目的として制定されたことに鑑みれば、個人のプライバシー保護を隠れ蓑 にして、県政を県民に説明する責務を回避することが可能となるような解釈が採られてはならず、こ のような条例の制定趣旨からするならば、本件条例5条1項本文該当性の判断をするに際しては、 当該事情を公開することによる利益と個人のプライバシー保護の利益とを比較考量するべきである ことを述べました。そうだとすれば、警察の予算執行にかかる職務遂行の私事性は皆無といえるほ どであるのは疑いないから、個人のプライバシー保護を問題とする必要はなくなります。

  4.  次に、我々が、本件各文書に記載された警部補以下の警察官の氏名等が、本件条例5条1項 ただし書きイに該当し、非公開とされてはならないと主張した根拠として提出したのが、「平成17年 8月3日付情報公開に関する連絡会議申合せ」です(資料2)。

     これによれば、
     各行政機関は、その所属する職員(補助的業務に従事する非常勤職員を除く。)の職務遂 行に係る情報に含まれる当該職員の氏名については、情報公開法に基づく開示請求がされた場 合には「慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」「情報公開法5上1号但し 書きイ)に該当するものとして、特段の支障の生ずるおそれがある場合を除き、公にするものとする。

    なお、特段の支障の生ずるおそれがある場合とは、
    @氏名を公にすることにより、情報公開法第5条第2号から第6号までに掲げる不開示情報を公に することとなるような場合、
    A氏名を公にすることにより、個人の権利利益を害することとなるような場合、とされています。 警察庁は国家公安委員会に属し、同委員会は上記申し合わせの当時者たる内閣府に属するから、 本件条例の実施機関たる神奈川県警本部長も上記の公式解釈に従うべきである、と主張したのです。

     これに対し1審判決は、「連絡会議申合せ」につき、本件各処分がされた平成17年3月24日か ら4か月余りを経た同年8月3日に国の各府省間で情報公開法に係る事務処理上の取扱方針とし て行われたものであり、時期的にみても、また組織が異なることからしても、上記申合せが本件各処 分についても一定の拘束力を有すると解することはできない、と評価しました。

     しかし、この申し合わせがなされた経緯については、「総務省は、総務副大臣主催による「情報公 開法の制度運営に関する検討会」を開催し、法施行後4年を目途とした見直しについて有識者に よる専門的な検討を行い、その結果を「情報公開法の制度運営に関する検討会報告(平成17年 3月29日)として公表しました。」と記載されています。

    このような検討会において議論され、一定の 申合せがなされるということは、すでに検討会の開催に先立つ時期において、ある問題状況が認 識され、それが検討会において問題提起され、検討会委員や申合せ当事者にとっても認識が一 致しているからこそ具体的な申合せ事項として公表されるに至るのが通常であり、むしろ、本件各 処分のされた同年3月24日時点において、職員の職務遂行にかかる情報に含まれる当該職員の 氏名については公にすべきだとの解釈が既に一般的なものであったと見るべきなのである、と主張 しました。
    1審判決のような判断は、「裁判所の認識が最も世間から立ち後れている」と言われる典 型例だといえるでしょう。  

          
第5 本件各文書に記載された内容が、
条例第5条6項に規定する、公安情報として非開示事 由に該当するかについて
     
  1.  条例第5条6項は、次のように規定しています。   (6)公開することにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の 安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある 情報  
  2.  1審判決は、本件条例5条6号該当性を理由とする非公開処分の違法性の判断は、当該処分 に裁量権の逸脱ないし濫用があるかどうかによって行うのが相当であるとした上で、現金出納帳等 を公開した場合の事件関係者等による捜査状況の推測や捜査員等へのはたらきかけの具体的蓋 然性についての判断は実施機関に裁量が認められるところであり、捜査への支障等は生じないとす るだけの具体的な根拠は見いだせず、本件各処分における実施機関の判断に裁量権の逸脱・濫 用があるとまでは認めることはできない、としました。

     

  3.  しかし、不開示処分により当該文書の内容を知り得ない神奈川県民が、非公開処分に裁量権 の逸脱・濫用があること、具体的には不正支出や、書類への事実と異なる内容の記載を具体的に 摘示することはおよそ不可能です。1審判決のような解釈を採るとすれば、内部告発者でも出ない 限り、捜査機関が保有する情報に関して情報公開がなされることはおよそあり得なくなりますが、県 民の知る権利を尊重し、県政を県民に説明する責務が全うされるようにすること(1条)を目的として 制定された本件条例が、このような程度にしか情報が公開されないことを想定して制定されたはず がありません。1審判決の解釈は「警察は秘密にしようと思えば何でも秘密にできる」ことを認めるよ うなものであり、本件条例が制定された趣旨を没却するものと解さざるを得ません。

     したがって少なくとも、5条6号が非公開事由として「相当の理由」を求めているのであるから、非公 開とした処分に「相当の理由」があることを実施機関において主張・立証する必要があると解すべき であり、その判断については、守秘義務について問題とされる実質秘性の3要件(非公知の事実で あって、実質的にもそれを秘密として保護する必要があり、かつ、記載された事実が適法であること) を充足するかによって判断すべきであることを主張しました。

     

  4.  加えて、県警側証人である森藤証人(元交通指導課課長代理)は、証人調べの中で、現金出 納帳の摘要欄には、捜査員の氏名と事件名が記載されるだけで、被疑者の名前は記載されず、事 件名も「暴走族の事件」「死亡ひき逃げ事件」といった、概括的な事件の性質が記載されるのみであ ることを認めました(資料4は警視庁銃器対策課のものだが、これとほぼ同じであることを認めた)。こ のように、捜査員の氏名と概括的な事件名が記載されるだけであれば、一つの課で扱う概括的事件 名などそうたくさん種類があるわけではないから、ある支出情報を開示したとしても具体的にどの事件 関係の支出か特定することはできず、捜査活動の状況が推察されるおそれはないし、また、現金出 納帳には捜査協力者の具体的情報は記載されないのであるから、現金出納帳を開示したとしても 「捜査の進捗状況や捜査方法を推測したり、捜査員や協力者へのはたらきかけを行ったりする可 能性」はないはずなのです。しかるに、1審判決はこの点につき何も触れようとしないので、その点 を批判しました。

第6 捜査報償費が、本来の目的に使用されているか
     
  1.  ここがメインの論点です。警察見張番としては、捜査報償費が本来の目的に使用されておらず、 裏金に回っている事実を主張立証すべく、

    @北海道警察その他の県警において、捜査費等が不正支出されていた事実が明らかとなって いる。この点、各都道府県警察は、組織、予算といった面について警察庁の監督下にあり、他の都 道府県について捜査費等の不正支出の事実が明らかとなっている以上、神奈川県警察についても 同様の扱いがなされているはずである。非開示処分は、情報公開条例が認めた非開示処分の本来 の目的を実現するためにのみ認められるべきものであり、本来の目的以外の目的のためになされた 非開示処分は違法である。

    A捜査費の支出は、月毎の事件の数や規模によって変動するはずであるが、本件公開請求に より公開された平成12年度の交通指導課及び少年課の捜査費総括表(県費)によると、同年度の交 通指導課及び少年課の捜査費(県費)は、各月の受入額と支出額がほぼ一致しており(資料3)、捜 査費が本来の用途に支出されていないことがうかがわれる。   ことを述べ、元警視庁で会計課勤務経験のある大内さんを証人申請し、ご証言いただきました。

            

  2.  これに対し1審判決は、まず大内さんの証言につき「同人は自ら捜査費の支払をしたり支出証 拠書類を作成したりしていたわけではなく、捜査費が裏金に回されているとか、本来の目的に使用 されていないといった供述は、警視庁の捜査員からの伝聞に過ぎない。」などと不当に低い評価を しています。

     しかし大内さんの証言は、警視庁の会計課会計監査室による事前監査に立ち会った際の内容を もとになされているのであり、現場の警察官から立ち話で聞いた程度の内容とは訳が違うこと、そし て会計責任者として現金の入った封筒を警視庁に取りに行き、あらかじめ課ごとに決められた金額 をそれぞれの封筒から抜き取る等の作業には直接関わっているのであるから、単なる「又聞き」のレ ベルではない信憑性のある証言であると評価すべきであることを主張しました。

  3.  次に1審判決は、森藤証人の証言につき「捜査費の受入額と執行額が均衡している点につい て、取扱者である課長が、捜査官幹部等からの捜査状況の報告を受け、必要と見込まれる捜査費 の検討がつくからであること、緊急時の捜査費用については、課長の判断で既に着手している捜査 の費用を転用することで賄っていることをそれぞれ証言している。/このように、森藤の証言は、原 告が捜査費の目的外使用を疑わせる事実として主張している、捜査費の受入額と収入額の均衡に ついてそれなりに説明しているといえる」などという、驚くべき評価をしています。

     一口に捜査費といっても、起こる事件の内容や規模によって必要となる捜査費の多寡に違いが出 るはずであることは誰が考えても分かることであり、捜査費が正しい目的に使用されているという前提 で考えたとき、森藤証人のいう「転用」であらゆる捜査費が賄えるということは到底考えにくいし、また、 そもそも捜査費は、緊急を要する場合や秘密を要する場合で、通常の支出手続を経ていたのでは 支障がある場合に現金経理が認められているものである。

    とすると、仮に秘密を要する場合の捜査費は転用可能だとしても、緊急を要する場合の捜査費は 転用できないはずであり、「転用」によって捜 査費の帳尻が合わせられるようなものであれば、逆に「緊急を要する」ことはなかったのではないか との疑いが出てきます(森藤証人も、在任中捜査費の追加支給がされたことなどないことを認めてい ます)。

     むしろ、仙台地判平成17年6月21日が指摘した、「情報提供者及び捜査協力者からの情報提供 ・捜査協力は、情報の信憑性、情報の価値、捜査協力の有用性、危険性などにおいて千差万別で あり、それによって情報提供者・捜査協力者に対する謝礼の支払額も異ならないと十分な協力が得 られないのが通常と考えられる。

    接触費も、接触の態様等によって支払額が異なってくるのが通常と 考えられる。/それにもかかわらず、前示1(34)ア@(注:情報提供謝礼等に係る報償費の1件当た りの支出金額が課ごとにみるとほぼ定額であること)のような傾向がうかがわれるのは、報償費の支払 の実体が存在することに疑問を抱かせるものである。」という考え方が、一般社会の常識であることを 述べました。

  4.  その上で、それにも関わらず1審判決のような判断がなされたのは、三権分立の理念の下、行 政(警察)の問題ある運用を質すという裁判所の職責から逃げ、証拠不十分で警察見張番を負かそ うとの結論を最初から決めた上で、本件条例の解釈にしても神奈川県民にとって到底主張立証不可 能な構成を採り、証拠評価についても、県警に有利でありそうな証拠に関しては意図的に積極的に 採用する一方、警察見張番に有利な証拠に関しては目をつぶるという、「決め打ち判決」であったか らに他ならない、と指摘しました。

第7 終わりに    
東京高裁での第1回口頭弁論期日は、2月28日(水)午前10時(817号法廷)と指定されまし た。係属係である第20民事部が、「三権分立の理念の下、行政(警察)の問題ある運用を質すとい う裁判所の職責」を全うしようとの、使命感ある部であることを期待したいものです。
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● 判決に対する素朴な疑問

間瀬 辰男

 警察に限らず、どこの役所もできることなら何も見せたくない、だから「とりあえず非開示処分」 という「秘密主義」の習性は否定しがたい。

とりわけ、警察は別格だという意識が強い。私が、捜 査とは全く関係のない、道路交通法による許認可に関する文書の開示請求をした時、警察に 文書を見せろなどと言ってくる奴は正気か、という顔で応対されたことを思い出す。

ごく最近、「仮装大会」というテレビ番組に自衛隊員のグループが参加して入賞した。その際、司会者の 質問全てに「防衛機密です」の一言のオウム返しで押し通していた。法廷での「捜査秘密です」 のこだまを聞いた気分だった。恐ろしいことである。

 この事件で気になるのは、開示を求めているのは「情報」であって、「文書」ではないということ である。「文書」の開示は「情報」の開示の手段であって目的ではない。つまり、本件は捜査報 償費の支出事務に使われた「情報」の開示を求めたのである。

例えば、現金出納簿について 言えば、現金出納簿に記載されている「情報」の開示を求めたのであるから、日付、官職、支 出事由、支出金額、返納金額、差引残高を開示したからといって、捜査に支障が生じるとは考 えられない。それなのに、黒塗りにしたのは違法である。

他の文書にしても、前記の項目であれ ばその部分だけを開示しても捜査に支障が生じるとは考えられない。領収書の支出金額を公 開したからといって捜査に支障があるとは考えられないから、支障のある部分は黒塗りして表題、 日付、金額など支障の無い部分だけでも開示すべきなのに全部を非開示にしたのは違法で ある。領収書の存否を秘匿したかったのであろう。

判決はこの点を見過ごした点において誤りがあると私は考えている。これでは、一条の光も見出 せない暗黒の世界である。情報公開に対する姿勢をまず正させることが第一歩である。


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● 捜査報償費裁判をめぐって
   

 「明るい警察を実現する全国ネットワーク」
                              代表 原田 宏二

平成18年11月22日、横浜地裁は、警察見張番が「神奈川県警を相手取り捜査報償費の出納簿 などの大部分を非開示としたのは、不正な支出を隠蔽するためだ」と県警に非開示処分の取り消 しを求めた訴訟の判決で請求を棄却した。

今回の訴訟の対象になったのは、平成12年度と15年度の県警本部交通指導課と少年課の捜査 報償費だ。私は、この裁判の口頭弁論を傍聴したこともなく、記録に目を通したこともないので、 この裁判の内容について論評することはできない。

おそらく、神奈川県警は「捜査報償費を受け取った協力者や捜査員の名前、事件名を開示すれ ば、捜査に支障がある」と反論したに違いない。何故なら、これまで多くの情報開示請求の裁判 で警察側が常套としている反論だからだ。

15年度といえば、警察の裏金問題が全国的に大騒ぎになる前の話しだ。この頃は、警察内部で は、堂々?と組織的な裏金つくりが行われていた時期でもある。そのやり方は、全国共通だ。

電話帳などから抜き出した名前を使って架空の協力者をデッチあげ、捜査報償費を受け取った というニセ領収書を現場の捜査員に書かせ、それに見合ったニセ会計書類をつくるのだ。

                       おそらく、開示請求の対象となった県警交通指導課と少年課でも同じことが行われていたであろ うことは想像に難くない。私の体験からは、そもそも、交通指導課や少年課が捜査報償費を支払 うような協力者が存在するなどということは想像さえできない。この2つの課の仕事の性質上、どん な協力者を必要としていたのかが、俄かには浮かんでは来ないのだ。

警察情報の開示請求に立ちはだかる厚い壁は裁判だけではない。つい先日、札幌の市川守弘 弁護士による「道警本部銃器対策課の捜査費と捜査用報償費関係文書の開示請求」に対する 北海道警察の非開示決定に対して、北海道情報公開審査会が北海道警察の非開示決定を是 認する答申を出した。私と道警OBの斉藤邦雄君の意見陳述は完全に無視された。

平成17年6月、仙台市民オンブズマンが「宮城県警の捜査報償費が裏金に回されている」として 提起していた返還請求訴訟の判決があった。判決は、会計課長の責任は認めず棄却したが「報 償費の支出の相当部分に実態がなかった」と県警の裏金の存在を強く示唆した。

この裁判では、私が北海道警察の裏金システムについて証言し「全国の警察でも同じような裏金 システムが存在すると思われる」と指摘した。判決では私の証言も採用されていた。 警察の裏金システムを体験上熟知している私からすれば当然の判決なのだが、仙台市民オンブ ズマンが、この程度の判決であっても「捜査報償費の不正支出を正面から認めた画期的な判決 で、実質的な勝利だ」と評価したことでも判るとおり、警察の裏金システムのベールは厚い。

警察の裏金問題をめぐる訴訟だけではなく刑事裁判でも、裁判官はどちらかといえば警察側の 主張を採用する傾向が強い。今年8月に出版した拙書「警察vs警察官」(講談社)書くに当たって 、元長崎県警の大宅さんの事件、元高知県警の片岡さんの事件、愛媛県警の仙波さんの息子さ んの事件の裁判記録を読ませてもらったが、いずれの事件でもそうした傾向を感じた。

元高裁の裁判官で香川県の弁護士の生田暉雄氏がある雑誌の対談「日本の裁判はこんなことになってし まった」で、裁判所について「警察・検察といった行政機関の行為を裁判によって追認している」と 述べている。そうした意味では、今回の横浜地裁の判決は、当然と言えば当然の結果ともいえる。

では「警察見張番」の提訴は、無駄だったのだろうか。私は決してそうではないと思う。 市民団体が、警察の監視を続けて訴訟を繰り返し提起することによって、警察は今までのような やり方はできなくなるであろうことは間違いない。では、警察の裏金つくりはなくなったのだろうか。

それは否だ。平成16年以降全国17都道府県警察で裏金疑惑が発覚したことにより、警察側も当 面は用心しているであろう。しかしながら、警察の隠蔽体質が何も変わらず、警察をチエックす べき知事、議会、公安委員会,監査委員などが,形骸化したままでは、裏金つくりはより巧妙に続 けられるであろうことは想像に難くない。

このことは、平成7年に県庁の裏金問題が北海道、宮城 県、秋田県などで発覚し、10年後に長崎県、岐阜県で再び発覚したことでも明らかだ。加えて、 会計書類の保存年限は5年だ。今後の警察の裏金システムの実態解明の阻む壁はより厚く、 より高くなるに違いない。

           市民にとって、正義を求める最後の砦であるはずの裁判が、私たちの期待する判断をしないか らといって諦めてはならないと思う。繰り返し警察に対して情報公開を迫り、必要なら訴訟も提起 することが何よりも必要なのだ。

 開かれた警察を求める「警察見張番」の役割はこれからも重要である。ひとつの判決に一喜一 憂する必要はない。


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